大竹聡さんの「20代に教えたい」酒場案内。
焼肉で飲む!|東京・浅草「金楽」(前編)

焼肉で飲む!|東京・浅草「金楽」(前編)

おいしいお酒が飲めるのは、酒場だけとは限らない。うまい肉とホルモンとナムルやキムチがあったなら、焼肉屋だって最高の酒場になりうるのだ。

場所は浅草。今夜はとっておきの焼肉屋で飲む。

うまい焼肉を食べたい。酒を飲むときはあまりものを食べない私ですが、焼肉は例外だ。
実は、朝の寝床の中で、今夜は焼肉にしようかと思い立つ日も、けっこう多いのです。

どこの店で食べ、かつ飲むのか。それについても思い浮かべるのは当然のことで、文字どおり、あの店この店と、指折り数えることになるのです。そして、今回は、とっておきの一軒にお邪魔をしたいと思った次第です。

場所は浅草。大好きな街ですが、多摩地域在住の私のホームグラウンドではないから、とっておきとは言っても、そうそう何度も訪ねたことがあるわけではありません。

それでも、とっておき、なのです。

店名は「金楽」。さっそく入店します。瓶ビールとナムルとキムチを注文。肉をどうしようか、と思いつつ、まずは乾杯だ。連れ合いはいつものように絵描きの八っつぁんとよろず取り仕切りのお由美さんのふたり。総勢3人で出かけると肉もあれこれ注文できて楽しい。

大竹さん

今朝、寝床で夢想した理想のタンを頬張る!

さっぱりした味付けのナムルのもやし。シャキシャキとして爽快な印象を与えます。これですよ、このナムルです、と思ったら、急激に食欲がわいてきた。

瓶ビールとナムルとキムチ

肉の最初はタン。テーブルの中央にすっぽりおさまる大きめの七輪には、いっぱいの炭がきれいに配置され、準備万端、整っている。

タンが出てきた。薄切りじゃない。昨今ときどき見かける分厚い切り方とも違う。乱切りとでも申しましょうか。炭に熱せられた網の上に置くと、お由美さん、さっそくお店の方に、タンの上手な焼き方を訊いている。
「お好み次第ですが、これだけ厚いのでしっかり焼いたほうがいいかと思います。個人的な意見ですけど」

店の方のコメントである。言われたとおり、少し入念に火を入れて、レモンを搾った小皿にちょっとつけて、口へ運ぶ。これだけ分厚いのに硬くはなく、やたら脂っぽいタンとも違う。

タン

「ああ、うまい!」

ため息と一緒に、思わずひと言が飛び出した。これこれ、今朝、寝床の中で夢想したのは、このタンである。ふた切れ目を口に入れ、この味わいと噛み応えと、少し甘いような、タン独特の丸みを楽しみつつ、コップのビールを干す。
2人前のタンは、乾杯を終えた3人の前で、見る見るうちになくなっていく。気分がいいくらいにテンポがよく、3人同時に強い食欲を満たしにかかっているのがわかる。

ハラミ、ホルモン、キムチ!感動は続く!

塩焼きのタンの後は、間髪入れずにカルビ、ハラミ、ホルモンを網に乗せていく。この、カルビとハラミもころりとした形状に切ってある。小皿のタレに少し付けるが、付けずに焼いたままで食べるのもいい。そして、キムチを口へ運ぶ。これが、また、爽快な印象を与える。

ハラミ

タレはもちろん、キムチもナムルも、コチュジャンも手づくり。我らの肉を網にのせてくれながら、若女将の任琴淑さんが教えてくださいました。

「ホルモンの脂を掃除するのも、うちではぜんぶ手作業です。とにかく手間暇をかけていますよ。キムチは私がつくっていますが。焼肉に合うキムチにしています。あくまでもお肉がメインですからくどくならない味わいにする。漬け方も少し浅めです。市販のキムチみたいなものだと味わいが濃すぎて肉の邪魔をしてしまうからです」

なるほどなあ。おっしゃるとおりだなと、思うのは、キムチの軽さとホルモンのうまさが、ちょっと圧倒的だからなのです。

それからハラミ。これはもう、ステーキだ。なんとも贅沢な気分にさせてくれるハラミですね。こんなうまい肉を庶民的な家族経営の老舗で気楽に楽しめる。実に大きなヨロコビであります。

――明日につづく。

店舗情報店舗情報

金楽
  • 【住所】東京都台東区浅草1-15-4
  • 【電話番号】03‐3844‐3357
  • 【営業時間】12:00~23:00
  • 【定休日】火曜(祝日を除く)
  • 【アクセス】東京メトロ「浅草駅」より4分

文:大竹聡 イラスト:信濃八太郎

大竹 聡

大竹 聡 (ライター・作家)

1963年東京の西郊の生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てフリーに。コアな酒呑みファンを持つ雑誌『酒とつまみ』初代編集長。おもな著書に『最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり』(双葉社)、『新幹線各駅停車 こだま酒場紀行』(ウェッジ)など多数。近著に『酔っぱらいに贈る言葉』(筑摩書房)が刊行。