新潟県佐渡島に登場した、手づくりチョリソーのサンドイッチを販売する「マノチョリソー」。「Silt」という店の一角で、間借り店として販売するのは週2日のみ。さて、それはどんなサンドイッチなのか?
水曜日と土曜日。
佐渡島の真野新町にある植物と洋酒の店「Silt」の店内は、いつもよりちょっと熱気を帯びる。
「マノチョリソー」が間借りで店を開く日なのだ。
店の奥に設けられた、コックピットのようなぎゅっとコンパクトなキッチンでは、瀬下要(せしもかなめ)さん、萌(もえ)さん夫妻が額に汗を浮かべながら、チョリソーを焼き上げていた。
ぷっくりとはちきれそうに中身の詰まったチョリソーからは、脂が浮きあがり、なんともおいしそう。
看板メニューは、このチョリソーと玉子を食パンにサンドした“チョリソーたまごサンド”。飲み物に、スペインの国民的飲料の“コラカオ”やコーヒーがあり、日によってはデザートの“アロス・コン・レチェ”などサイドメニューも用意。いずれも共通しているのはスペインと関わりの深いものだ。
ふたりが東京から佐渡島に移住してきたのは、2018年3月のこと。
「マノチョリソー」を開くにいたったのは、スペインへの憧憬がある。要さんがバックパッカーをしていた時代にもっとも心が引かれた地であり、ふたりで巡礼の地も歩いた。
「スペインを旅していて印象に残った味、自分たちが好きなものをできる範囲で出していきたい」という思いから、スペイン料理店での料理人の経験もある要さんはチョリソーを手づくりしはじめた。
「日本でチョリソーというと、一般的にはピリ辛のウインナーみたいなイメージが強いと思うんです。それは南米のスタイルのものなんです。スペインで食べられているのは、チョリソーに入れるのは唐辛子ではなく赤い色のパプリカパウダー。だからチョリソー自体に辛味はそうなく、仕上げにかけるブラバスソースの方に辛味があるんです。バル料理のソースを再現したもので、ジャガイモにかけてもおいしい。ヤミツキ感があります」
佐渡で無理なく手に入るものでスペイン流のチョリソーを表現し、それを地元の人に気に入ってもらえれば。そんな思いを持っているとき、同じ移住組の「Silt」店主の椎名智代さんと出会い、話はとんとん拍子に。
2019年4月、まずは間借りという形で店を始めるに至った。
スペインのクラシックなレシピにのっとり、豚の腸に入れるのは豚肉のみ。そのチョリソーを玉子とともに炒め、食パンにサンドするのは、「誰もが手に取りやすい形とは?」を考え、たどり着いたひとつの答えだ。
1人分500円という金額設定も、チョリソーを“日常のもの”にするための課題だった
食パンは、萌さんが手ごねで焼き上げたもの。機械でこねるよりふんわりとした食感になり、「特別なものは使ってない」というその素朴さがまた老若男女問わず食べやすい。
要さんは言う。
「佐渡の方たちは新しいものに敏感で、最近は移住してくる人も増えていて、いいスタートが切れていると思います。この地に根付いた味にしていきたいですね」
屋号の「マノチョリソー」のマノとは、この地の地名が「真野(まの)」であることと、スペイン語で「マノ」が「手」の意味を持つことから命名した。
夫婦ふたりの手が生みだすスペインのエッセンスは、少しずつゆっくりとこの地になじみつつある。
――つづく。
文:沼由美子 写真:大森克己