和食と吟味した日本酒、そしてナチュラルワインも愉しめる東京は渋谷にある「酒井商会」では、ジョージアワインも常備している。1品目に頼んだ“焼穴子サンド”とジョージアワインは驚きの相性!その解説を聞きながら、名物のハムカツにもトライした。
割烹居酒屋の「酒井商会」では、ジョージア人も試したことがないユニークな食べ合わせを愉しめる。
“焼穴子サンド”とジョージアワインの「DEREMI(ドレミ) Kisi(キシ)」を口にし、口福感に酔いしれる私を見ながら、ワインを担当する城戸美貴子さんがワインと料理の説明をしてくれた。
「『DOREMI(ドレミ)』は開栓した時に、竹の割箸を割ったときのような香りがすることがあります。金木犀のような華やかな香りや、ぶどうを果皮ごと漬けたことから出るタニックな風味と、穴子の土っぽい感じが合うんだと思います。しかもこのワインには、蜂蜜や味醂のようなニュアンスもあるので、昆布の佃煮を使った焼穴子サンドと同調するのではないでしょうか」
城戸さんのコメントを聞いていた、店主の酒井英彰さんも話に加わった。
「醤油と味醂を含んだ佃煮が、この料理のソースのような役割をしているんだと思います。『ドレミ』のキシは、甘辛い料理との相性がいいのかもしれません」
ジョージアワインを和食と合わせるのは難しいのではないかと決めつけていたが、意外だった。
ジョージアワインを扱い始めた頃、城戸さんが、合わせてみたいと思い浮かんだ料理は、先の“焼穴子サンド”のほかにもう1品あった。
ハムカツである。
私はコロッケには目がないが、ハムカツも大好物。大好きな揚げ物とジョージアワインのペアリングを試さないわけがない。
ハムカツは、長崎の「雲仙ハム」のポークハムを使っており、厚さは約5cm!揚げたての立ち上る湯気が、さらに食欲をそそる。
酒井さんが言う。
「粒マスタードを付けて召し上がってください。粒マスタードには赤ワインや和がらしも使っていて、さっぱりと食べられるし、アクセントにもなると思います」
ワインは「ドレミ」の他に、「PHEASANT'S TEARS(フェザンツ ティアーズ)」も試してみた。
肉や脂との相性は申し分ない。ジョージアワインを飲みながらハムカツを食べると、肉や脂の旨味がより際立つようだ。
「ハムカツには赤ワインだと思いがちですよね?でも、ジョージアワインとも合うんですよ。お客様にお勧めすると、ほとんどの方が喜んでくれます」と城戸さんが言う。
酒井さんに、なぜジョージアワインを置いているのかを訊ねた。
「2018年の11月のことです。オリジナリティあふれるナチュラルワイン扱いたいと思っていたところに、オーストラリアのワイナリーで働いていた経験のある城戸が入店しました。店に入ったばかりの彼女の提案がきっかけになったんです」
ワイン好きで、ビストロのサービスとしても働いていた城戸さんは、2018年の夏に開かれたジョージアワインのセミナーに参加。
その時に特別講師として来ていたワインディレクターから「ジョージアワインと和食が合う」という話を聞き、「面白いなあ」と思っていた。
ワインディレクターは「ワインの起源とされる、8000年の歴史があるジョージアワインを飲食店はなぜ扱わないのか」と参加者たちに疑問を投げかけた。
城戸さんの脳裏には、ワインディレクターが語ってくれたその話が今も鮮明に残っている。
城戸さんにとって、和食とナチュラルワインを合わせる「酒井商会」はその答えを探るのに格好の場だった。入店するとすぐに、酒井さんにジョージアワインを置くことを提案したのだった。
セミナーには、「ノンナアンドシディ」のオーナー、岡崎玲子さんも講師として招かれていた。
酒井さんはこう振り返る。
「入店した城戸からジョージアワインの話を聞き、スタッフ全員で恵比寿にある『ノンナアンドシディ・ショップ』に出かけることにしました」
スタッフ全員が岡崎さんからジョージアワインの説明を受け、試飲させてもらった。
「いろいろなジョージアワインの中から、うちの料理と合うものを選ぶことにしました」
城戸さんの入店から1ヶ月後の2018年12月、「酒井商会」にジョージアワインが並んだ。
「オリジナリティあふれるナチュラルワイン」「和食と相性がいい」という要素から、ジョージアワインは「酒井商会」のレギュラーとなっている。
こうなると、もっとオーソドックスな和食とジョージアワインの相性も知りたい。
次は、“銀だら酒粕西京焼”とお椀をつくってもらうおう。
――つづく。
1984年福岡県福岡市生まれ。大学卒業後、オーストラリアのフレンチレストランに就職する。帰国後、神奈川の「三笠会館」でフレンチに従事。その後5年間、外食チェーンで研鑽を積む。割烹と吟味した日本酒を愉しめる、東京・渋谷「並木橋なかむら」、渋谷「高太郎」を経て、2018年4月に「酒井商会」を開業する。
熊本県玉名市生まれ。アパレル業界からオーストラリア人が営む渋谷のレストランに転職。その後、オーストラリアの屈指のワインの産地、アデレードのワイナリーで職を得る。帰国後、東京・原宿のフレンチ「kiki」でサービスを担当。和食とワインに惹かれ、「酒井商会」に入店。現在に至る。
文:中島茂信 写真:オカダタカオ