甕で醸した古代の製法を継ぐジョージアワインは、白ワインでありながらオレンジや琥珀色をたたえる。大らかで「料理を呼ぶワイン」ともいわれるワインの和食の相性はいかに?
東京は渋谷にある「酒井商会」は、吟味した日本酒とナチュラルワインと共に和食を愉しめる割烹居酒屋だ。
ナチュラルワインの中には、常時、ジョージアワインも用意してあるという。
ジョージアワインを扱うレストランが増えているとはいえ、まさか割烹居酒屋でも出しているとは思わなかった。
前回は、ジョージアワインと広東料理が愉しめる「サエキ飯店」を紹介した。
「オレンジワイン」「アンバーワイン」と呼ばれるオレンジ色の白ワインと、佐伯悠太郎さんがつくる王道の広東料理。洗練された香辛料づかいの豚耳と豚足の冷前菜や、スキッと軽やかでいて濃厚な旨味をたたえた上湯麺のスープとの相性には、感動すら覚えた。
ジョージアワインの懐の深さをまじまじと痛感させられたものだ。
では、ジョージアワインと和食の相性はどうなのか?
すき焼きや豚肉の生姜焼きのような肉料理なら合うのかも?
でも、和食の主役食材である魚料理やだしを使った繊細な料理との相性はどうなのだろう?
いずれにしても未知数である。
期待と不安を抱きながら、渋谷警察署の真裏にある「酒井商会」へ向かった。
2018年4月の開業。店主の酒井英彰さんの出身地である福岡県、そして九州の食材を中心に使った料理が愉しめるという。
手書きの品書きには、お造り、蒸煮、焼きもの、揚げもの、旬の素材、珍味、土鍋ごはんなどがあり、和食の基本を押さえつつも独創的に再解釈をした料理が記載されている。
肝心のジョージアワインは、壁に立てかけた黒板のワイン紹介のなかに「Red」「White」「Orange」とあり、その中に「DEREMI(ドレミ) Kisi(キシ)」を見つけることができた。
「オレンジワインをご存知のお客様も多く、黒板を見て注文される方もいます」と教えてくれたのは、この店のワイン担当の城戸美貴子さんだ。
ワインは城戸さんと、店主の酒井さんが厳選している。
城戸さん曰く「ヨーロッパやオーストラリアのナチュラルワインがメインで、ジョージアワインは常時5種類ほど扱っています」。
今、店に置いているというジョージアワインを見せてもらった。
左から「OUR WINE(アワワイン)サペラヴィ2017」「NIKA(ニカ)ANNA2015」「GIORGI KIPIANI(ギオルギ・キピアニ)ツォリコウリ2017」「PHEASANT’S TEARS(フェザンツ ティアーズ)ツィツカ2016」「SISTER’S WINES(シスターズ ワイン) キシ2016」。
いずれも甕で醸された、古代から継ぐ造りのジョージアワインである。
さっそく、ジョージアワインに合う料理をリクエストした。
酒井さんと城戸さんが挙げたのは、“焼穴子サンド”なるもの。「酒井商会」の看板メニューのひとつなのだという。
酒井さんが説明を添える。
「トーストしたサンドイッチ用のパンに、穴子の白焼き、焼き海苔、昆布の佃煮、クリームチーズ、おろしたわさびを挟んでいます。昆布の佃煮は一番だしを取った昆布でつくった自家製です」
合わせるワインは、黒板に書かれていた「ドレミ キシ」だ。
当然ながら、穴子の白焼きに焼海苔といったそれぞれの食材の味は知っていても、それらをトーストしたパンに挟んだサンドイッチは初体験。
もちろん、ジョージアワインとのペアリングも未体験。
カリッと香ばしくトーストしたパンの“焼穴子サンド”を頬張った後、「ドレミ」をひと口飲んだ。
なんだこれはっ!?
初めてジョージアワインを飲んだときのように、頭の中は疑問符がいっぱいになったものの、思わず笑みがこぼれた。
すべての食材とドレミが混然となり、口の中で不思議な味わいが生まれていた。穴子の脂、昆布の佃煮など酒井さんが選んだ食材と、「ドレミ」の心地よい渋味と華やかな香りが手をつないで、踊りだしているような感覚。
酒井さん、城戸さん!これはいったいどういうことなのでしょう?
――つづく。
文:中島茂信 写真:オカダタカオ
1984年福岡県福岡市生まれ。大学卒業後、オーストラリアのフレンチレストランに就職する。帰国後、神奈川の「三笠会館」でフレンチに従事。その後5年間、外食チェーンで研鑽を積む。割烹と吟味した日本酒を愉しめる、東京・渋谷「並木橋なかむら」、渋谷「高太郎」を経て、2018年4月に「酒井商会」を開業する。
熊本県玉名市生まれ。アパレル業界からオーストラリア人が営む渋谷のレストランに転職。その後、オーストラリアの屈指のワインの産地、アデレードのワイナリーで職を得る。帰国後、東京・原宿のフレンチ「kiki」でサービスを担当。和食とワインに惹かれ、「酒井商会」に入店。現在に至る。