おかわり、ありません。

この話、つづきです。

ごはんのおかわり無料の定食屋さんで、大盛りを注文すると、さてどうなるか。
注文を取りにやってきた白衣姿の若いお兄さんが「おかわり、無料なんで」と言えば、大盛りをお願いしたおじさんは「おかわりはいらないから、大盛りにしてください」と返します。おかわりと大盛りの攻防です。たまたま、おじさんの対面に座っていた僕は、ふたりのやり取りを目の当たりにして、はらはらどきどき。ランチタイムに不要な緊張感を強いられます。
「おかわりじゃなくて、どうしても大盛りですか？」
「別料金でいいので、どうしても大盛りでお願いします」
おじさんにそうまで言われたお兄さんは、渋々という表現がぴったりの表情で大盛りを認めると、店の奥へと姿を消しました。

でもね、よくよく考えると、おかわりと大盛りを隔てるものは何もないんですよね。店は手間が減るから、大盛りで良かったんじゃないかな。明日から大盛り無料に変わったりして。そんなことをぼんやりと思い描いていると、目の前に座るおじさんと目が合っちゃって、なんとなく訊いてみます。
「なんで、おかわりじゃなくて大盛りなんですか？」

刹那、店の中が静まり返った気がしましたよ。
おじさんは「訊かれるだろうなと思っていましたよ」と、ぽつり。
「よく言えば、美意識となるんでしょうか」
えっ、美意識？
背広姿の中年男性で埋まった昼どきの定食屋さんに似つかわしくない単語です。美意識発言が飛び出したところに、お兄さんが料理を運んできます。
「ハンバーグ定食とごはんの大盛り、お待ちどうさま」と、おじさんの前にお盆をどん。
こんもりと盛られたごはんを目にすると、美意識ってなんだったかなぁ。そう思わずにいられません。
そろそろ、画面が尽きました。

この話、もう少しつづきます。