正月休みの後の3連休も終わって、お屠蘇気分がすっかり抜けた今日この頃。成人式が1月15日で染み付いている身としては、2020年は13日が成人の日と言われても、なんだか馴染めない。2021年は1月11日みたいだしね。変化を受け入れ、対応して、もしくは考えない感じない。そうやって、過ごしていけばいいのかなぁ。
ちょうど1ヶ月前のこと。師走だというのに、僕は歩くことすらままらなかったんですよね。
痛風です。
外出するときは、足を引きずりながらゆっくり歩くか、松葉杖を使ってえっちらおっちら歩くか。どちらかで、急場をしのいでいたんです。
その日は松葉杖。杖を小脇に挟みながら、駅へと続くエレベーターを1階で待っていたときのことです。その横には10段ほどの階段が2階へと伸びています。
僕が乗り込もうとすると、すみませーんって、遠くから声が聞こえてきて、推定50代半ばのおじさんが駆け足で向かってきます。開ボタンを押して待つとします。おじさんはエレベーターの中に走り込んでくると、あぁ間に合ったと言いながら、ぜぇぜぇと息を切らしています。それだけの元気があるなら、階段を使えばいいのにねと思いながら前を見ると、ひとりのおばあさんがゆっくりと向かってくるんですよね。左手を上げて、ちょっと待ってのポーズ。僕は再び、開ボタンを押して、おばあさんの到着を待ちます。
数秒後、3人を乗せたエレベーターは上昇開始。そこで、息が整ったおじさんが「お兄さん、いい人だね」と僕に笑いかけてきたんですね。おばあさんも「ほんと、ありがとう。足、悪いの?」。「痛いんです」と僕は応えます。
2階にエレベーターが到着すると、今度はおじさんが開ボタンを押して、僕らふたりを外へと促します。会釈をしながら外に出ると、先を歩いていたおばあさんがバックから蜜柑を出して「これ食べて。早く良くなってね」。僕は蜜柑を受け取ります。後ろからのおじさんは「バナナくらいしかないけど、食べる?」。おじさんは僕にバナナを手渡すと、小走りで駅へと向かっていきました。そんなに体力あるなら、階段を使ってよと思いながら、僕はおじさんの後ろ姿を見送り、左へと曲がったおばさんにお礼を言って、蜜柑とバナナを仕舞うと、松葉杖を使ってぎこちない歩みで駅へと向かいました。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:佐伯慎亮