さすがに毎日は無理だけど、週1回ならがんばれるかな(仮)
さよならするのはつらいけど。

さよならするのはつらいけど。

子供の頃、本当にわくわくしながら土曜の夜を待っていた。万難を排して、テレビと向き合った。録画なんて言葉すらなかった時代。リアルタイムで観ることしか選択肢はなし。笑って、踊って、歌って、また笑って、あっという間に1時間が過ぎていった。あの頃を想い出すと、切なくなる。今日で3月もおしまい。SF映画の中に紛れ込んだかのような日々が早く終わりますように。

この話、つづきです。

なぜ、おかわりじゃなくて大盛りを熱望するのか。
ハンバーグ定食を食べながら、偶然に向かい合わせて座ったおじさんの話に耳を傾けます。
「子供の頃、父にこっぴどく怒られましてね」
気がつけば、さっきまで活気に溢れていた定食屋さんが静まり返っています。みんな、おじさんの話に耳をそばだてているかのよう。咀嚼する音が店内を包みます。

「おかわりなんて、男がすることかっ。ガシャンって」
えっ、ガシャンっ?
「父が手にしていた箸をテーブルに叩きつけたんです」
それは恐ろしい。
「そのときの父の顔がなまはげに見えて、怖くて怖くて」
秋田出身ですか?
「はい、そうなんです」
おじさんが語るおかわり秘話は、ごはんがすすみます。僕はついつい、おかわり。

「父が言うには、男なら最初から大盛りにしろと。残しちゃうかもしれないと思って普通盛りにするなと。普通盛りにしたくせに、おかわりをする根性が許せないと」
なんだか、たったいま、おかわりをした自分が責められている気分です。
「そのときに父が言ったんです。男なら美意識を持て。その教えをいまも忠実に守っているわけです」
なんと、ここで出てきましたか、美意識が。
「なまはげの顔をした父がトラウマになっているのかもしれません。それ以来、おかわりだけはしたことがありません。普通盛りもしません。いつも大盛りにしています」
えっ、大盛りにしなくてもいいのでは?
「大盛りは私の美意識です」

おじさんは僕よりひと足先に食べ終えて、店を出て行きました。ついさっき、おかわりか大盛りかで丁々発止とやり合った若い店員さんがお盆を下げにきて、真顔で「深かったすね」。
ハンバーグ定食を食べ終えた僕は、いろんな意味を込めて、ごちそうさまと手を合わせます。

会計を済ませて外に出ると、後ろから若い店員さんの大きな声が聞こえてきました。
「ありがとうございました」

dancyu web編集長 江部拓弥
写真:阪本勇

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