オレンジ色のじんわり系「ジョージアワイン」ってなんだ?
ジョージアはアメリカにあらず。ヨーロッパとアジアの境にあり。

ジョージアはアメリカにあらず。ヨーロッパとアジアの境にあり。

甕で造られるジョージアワインのことが知りたくて、まず向かったのは首都大学東京(東京都立大学)。なぜって、ここには「Mr.ジョージア」と呼ばれる先生がいるのだ。ワインを知るには、まずジョージアの地理を知らなくっちゃ。

ジョージアワインとの出会い。その衝撃。

どこへ行ってみたいかと訊かれたら、私はためらいなく「ジョージア」と答える。
といってもレイ・チャールズが唄った「Georgia On My Mind」のジョージア州ではない。ユーラシア大陸の中央に位置し、ヨーロッパとアジアのまさに境目にある国、ジョージアである。
ジョージアという国は、ロシア語に由来する「グルジア」と呼ばれてきた。2015年4月の法律改正後、ジョージアと表記することに。このシリーズでは、ジョージアで統一しよう。

私の旅心をかき立てる理由、それはジョージアが「オレンジワイン」、現地では「アンバーワイン」と呼ばれるワインの産地だからだ。

出会いは衝撃だった。
2017年の1月、東京は恵比寿にある食材とワインを扱う「ノンナアンドシディ」。ジョージアワインのジの字も知らずに、お邪魔した。オリーブオイルやパスタ、ワインも扱うセレクトショップ的な食材店で、私はチョコレートの取材の一連で店へと足を運んだのだった。

そのとき、スタッフの女性が「よろしければ試飲を」とグラスにとあるワインを注いでくれた。
説明はまったくなし。
注がれたワインは、白でも赤でもロゼでもない。まさにオレンジ色だった。フルーティーな芳しい香りを放っていたものの、なんだが怪しいぐらい濁っていた。

ジョージアワイン
初めて飲んだのはこんなワインだったのでしょうか。右の濁ったワインも、左のオレンジ色のワインもジョージアの甕造りのワイン。

(なんだこれ!?)
アンバーワインを初めて飲むとき、多くの人が思うであろうことを私は感じた。
私はイタリアやフランス、チリなどの手頃なワインを嗜む、ただの酒好き。グラスに注がれワインを見て、産地や銘柄がわかるはずもない。

首をかしげながら、濁ったワインをひと口。
(なんじゃこりゃっ!!!!?)

経験したことがない、謎の味わいに、全身に衝撃が走った。金づちで頭を殴られたような、とでもいうのだろうか。
その濁ったワインは豊かな果実味とタンニンを含んでいて、体の奥底から強烈に惹きつけられる味だったのだ。

「ジョージアで造られたワインです。『クヴェヴリ』と呼ばれる素焼きの甕で醸した白ワインなんです」
スタッフの説明を受け、もうひと口。
なんだがよくわからなかったが、謎めいたジョージアワインにひと目惚れ。いや、ひと口惚れ。虜になった。
以来、Georgia On My Mind。思うのはジョージアのことばかり。頭からジョージアが離れなくなってしまったのだ。

“Mr.ジョージア”にジョージアの地理を教えてもらう。

行ってみたいと願いつつ、ジョージアがどこにあるのか、どんな歴史がある国なのか、どうもピンとこない。そこで、「Mr.ジョージア」こと、首都大学東京(東京都立大学)の人文社会学部教授である前田弘毅先生の門を叩くことにした。

首都大学東京(東京都立大学)のキャンパス
東京都八王子市南大沢にある首都大学東京(東京都立大学)のキャンパス。

前田先生はジョージア研究家として国内外でも知られている御仁。1995年9月、24歳のとき、3ヶ月間ジョージアの首都トビリシの一般家庭にホームステイ。その後、邦人として初めて2年間の長期留学をした。以来24年間、何度もジョージアへ渡り、現地の人々と生活を共にし、ワインを酌み交わしてきた経験の持ち主なのである。

前田弘毅先生
日本一ジョージアに詳しいといっても過言ではない、前田弘毅先生。

開口一番、私は前田先生にジョージアはどこにあるのか訊ねた。
すると畳1枚ほどもある巨大な地図をテーブルに広げた。コーカサス地方の地図だ。
「左が黒海、右がカスピ海です」
地図を指差しながら、前田先生は説明を続けた。
「このふたつにはさまれた地域がコーカサス地方です。その中央を、5,000m級のコーカサス山脈が東西に走っています。コーカサス山脈の北側がロシア、南側がジョージアです」

地図を広げる先生
中北にロシア、南にトルコやイラン……。その中心にジョージアが描かれたユーラシア大陸の地図が広げられた。
地図
ジョージア国内に点在する、グルジア正教会の位置を示す地図。ジョージアだけの地図なので、地名などがわかりやすいのだそう。

面積は約7万m2で日本の約5分の1。国土が、南北に横たわるリヒ山脈で東西に分断。
黒海に面する西側が西ジョージア、東側が東ジョージアと呼ばれている。
東には、首都トビリシやカヘティ、カルトリという地域がある。
西の地域はもっと細かくわかれているという。
Mr.ジョージアは、各地域は文化も言葉も、日本の東北や四国や九州とは比較にならないぐらい異なると教えてくれた。

ワインを語る上でもっとも重要といわれる気候についても語ってくれた。
西ジョージアは、湿度が高く、降水量も多い。家畜は豚。主食はトウモロコシ。トウモロコシを挽いた粉を焼いたパンや、お粥を食べている。
東ジョージアは、乾燥した大陸性の気候。羊を飼い、小麦栽培が盛んなのだという。

次回は、ジョージア人とはどんな人々なのか、を聞いていこう。

――つづく。

文:中島茂信 写真:オカダタカオ

ジョージアワインの9人①

前田 弘毅(まえだ・ひろたけ)

1971年、東京生まれ。東京大学文学部東洋史学科卒業、同大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、博士(文学)。大学院在籍中にグルジア科学アカデミー東洋学研究所に留学。北海道大学客員准教授、大阪大学招へい准教授、首都大学東京都市教養学部准教授などを経て、2018年より現職。米ミシガン大学、スタンフォード大学、イェール大学で招待発表を行なうなど、ジョージア史の世界的な権威として知られる。著書に『多様性と可能性のコーカサス』(編著、北海道大学出版会)、『ユーラシア世界1』(共著、東京大学出版会)、『黒海の歴史』(監訳)、『コーカサスを知るための60章』(編著)、『イスラーム世界の奴隷軍人とその実像』(ともに明石書店)、『グルジア現代史』(東洋書店)など。HPはhttps://www.hmaeda-tmu.com/。 2019年11月1日より公開されるドキュメンタリー映画「ジョージア、ワインが生まれたところ」(https://www.uplink.co.jp/winefes/ )の字幕監修を務めている。

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中島 茂信(ライター)

1960年、東京都葛飾区生まれ。4歳の頃、亀戸天神の近くにあった「田久保精肉店」のコロッケと出会って以来コロッケ好き。趣味はラードで揚げたコロッケの買い食い。最後の晩餐はもちろんコロッケ。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』(枻出版社)、『101本の万年筆』(阪急コミュニケーションズ)、直木賞作家の山口瞳さんの妻である治子さんの聞き書き『瞳さんと』(小学館)、『自家菜園レストラン』(コモンズ)など。企画・編集に『笠原将弘のおやつまみ』(ぶんか社)、『平翠軒のごちそう宝箱』(小学館)がある。