食の仕事着。
有楽町「喫茶ローヤル」のネクタイ姿のロマンスグレーな接客のこと。

有楽町「喫茶ローヤル」のネクタイ姿のロマンスグレーな接客のこと。

有楽町駅前「東京交通会館」の地下には、いぶし銀な男性スタッフばかりが働くゴージャスな喫茶店がある。その名は「喫茶ローヤル」。このご時世に全席喫煙OK。紫煙の香り漂う、真の意味での“喫茶店”の姿が健在だ。

かつては美人喫茶。女性スタッフだけの時代があった。

「いらっしゃいませ、どうぞ空いているお席へ」
入口に立った途端、白髪を綺麗に撫でつけた温和な声の男性スタッフが、まだ人もまばらな店内へ、恭しく案内してくれた。

今井さん
白髪が素敵な今井さん(恥ずかしいので下の名前は内緒とのこと)は、「喫茶ローヤル」歴14年のベテラン。季節を感じさせるネクタイを選ぶことを心がけている。

アイロンがきちんとかかった清潔な白ワイシャツに、黒ズボン、黒靴。首元のネクタイは、垂れ下がって仕事の邪魔にならないようにと、あらかじめベルトの隙間に差し込まれている。きちんと律儀にネクタイを締めているところが、サラリーマンの街、有楽町の店っぽい。

全員が初老以上の男性スタッフのみで構成される独特の空間は、経験の豊富さをうかがわせる無駄のない動きと丁寧な物腰、必要以上に干渉しない接客態度が徹底されていて、思った以上に居心地がいい。スタッフというよりも、“ギャルソン”と呼びたくなるような格好よさだ。

ここは「喫茶ローヤル」。入居する「東京交通会館」の開業と同じ1965(昭和40)年にオープンした、館内の最古参店の一つだ。“同い年”の店には、最上階の「銀座スカイラウンジ」(「東京會舘」直営の回転展望レストラン)がある。どちらの店も、昭和が生んだ品のある落ち着きと豊かな寛ぎの時間を、いまも変わらず提供している。

外観
有楽町駅前の地下街にあるため、交通アクセス至便。向かいに東京都庁(現在は東京国際フォーラム)があった創業当時から通う常連客も少なくない。

「現在は男性スタッフばかりなのですが、当時は“美人喫茶”なんて言われて、スタッフが全員女性でした。制服も白っぽいニットワンピースのような服で、凝ったデザインのものだったんですよ」
「喫茶ローヤル」の支配人である野山弘さんが、懐かしそうに教えてくれた。

支配人の野山さん
支配人の野山弘さん。この日はインタビューなのでいつもよりラフな雰囲気だが、接客中はもちろんお気に入りのネクタイをビシッと決めている。

店の初代オーナーは、飲食店や娯楽施設などを手広く手がける実業家で、縁があり、この場所に喫茶店を開業したという。
「丸の内にお勤めの方が商談で使われたり、銀座でデートを楽しむ方にも使っていただいたりと、様々な用途に沿うように、一般的な街の喫茶店よりも、華やかで洒落た高級感のある内装にしたようですよ」

店内
ランチタイム以外は席の予約も可能。東京駅からも近いため、地方から上京してくる人も集まりやすく、同窓会などの団体利用も多いという。

赤を基調とした椅子、壁にふんだんに鏡を配置して豪華さと重厚感を意識した設え、そこを雰囲気のある間接照明が照らすのは、創業当時から変わらない。
「でも、これでも照明はだいぶ明るくしたんです。皆さんだんだんお年を召してきて、“この明るさじゃ新聞が読めないよ”なんていう声もあったので(笑)」

現在は男性スタッフオンリー。ネクタイはそれぞれ好きなものを。

かつては美しいウエイトレスたちが闊歩した店内を、現在はロマンスグレーの男性スタッフが行き交う。このような体制になったのは、2000年の前後のこと。前オーナーの娘さんである二代目に代替わりした頃からだという。
「やっぱり力仕事が多くてハードなのと、応募をかけても女性スタッフが集まらない時期が続いて、それならいっそ男性だけにしようということになったんです」

片づけるスタッフ
各卓にはシュガーポットとともに、ピカピカに磨かれた灰皿が置かれる。なにかと肩身の狭い喫煙客にとって、この店の存在は貴重だ。

その際に、いまの制服スタイルに落ち着いた。頭の上から爪先まで、“お客様に不快感と威圧感を与えないこと”がモットー。長髪や坊主、パーマは禁止。ネクタイだけは自前で好きなものをつけられるという。
「スタッフそれぞれでネクタイは個性が出ますね。お客様も結構よく見ておられて、“あら、ネクタイが変わりましたね”とか、“ちょっと髪が伸びてきたね”とか、言っていただくことも多いですよ」

スタッフたちのネクタイ
スタッフたちのネクタイにもご注目。仕事中に垂れ下がってこないように、ベルトで押さえたりシャツボタンの隙間に挟んだりと、個性が見える。

この日、接客してくれたあの白髪の紳士は、「季節感を意識して」と控えめに微笑みながら、遠目に紫陽花の模様に見えるネクタイを締めていた。
“そのネクタイ、素敵ですね”と気軽に声をかけられるようになるには、どのくらい通ったらいいだろう。

――つづく。

店舗情報店舗情報

喫茶ローヤル
  • 【住所】東京都千代田区有楽町2‐10‐1 東京交通会館地下1階
  • 【電話番号】03‐3214‐9043
  • 【営業時間】8:00~19:00(L.O.)、土日祝は11:00~18:00(L.O.)
  • 【定休日】1月1日
  • 【アクセス】JR・東京メトロ「有楽町駅」より1分

文:白井いち恵 写真:米谷享

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白井 いち恵(ライター・編集者)

新潟生まれ、千葉育ち。おもに街と食(ときどきバス)に関する記事を書いています。定まった仕事着がないわが身を省みて、食の世界も含めたプロたちのユニフォームに敬意と憧れを抱くこの頃。大抵、紺色を着ています。