麺店ポタリング紀行
東京の味を、東京で食べながら、東京から遠く離れていく。

東京の味を、東京で食べながら、東京から遠く離れていく。

ラーメンは土地土地に個性がある。いや、あった、という方がいいのかもしれない。気候や風土、産業などに根ざした、その土地だからこそのラーメンは存在する。地元で愛されている味だ。東京にだって、ある。「丸長」のラーメンは、東京のラーメンである。

昔からずっと続いているだけで、ありがたい。

「鹿港」で肉まんを食べた後、豪徳寺の「丸長」に戻った。
何度見ても、店名のロゴがいい。あれ?電話番号は新しいぞ。頭に3がついている。ということは平成以降の店なのかな?……そうは見えないけど。

丸長外観
ほぼ完璧な店構え。どう見てもおいしそう。

開け放しのドアをくぐる。L字型のカウンターに、小さなテーブルが数個。17時で、4人の客がいる。
メニューを見ると、《自家製麺》とあった。そのラーメンが450円だ。かつてラーメンが200円だった「満来」から来ると、特別感はないが、450円も十分すぎるほど良心的だ。つけめんも550円と安い。500円台のつけめんなんて見たことがない。

いつも思うんだけど、なぜつけめんってあんなに高いんだろう。材料はそんなに変わらないのに、たいていラーメンの1.5~2割増しだ(ま、ここも2割増しだけど)。
つけめんと迷ったが、結局、ラーメン、半チャーハン、餃子といういつもの“極楽3点セット”にした。
先客だったふたりの男性客は食べ終えるとすぐに店を出たが、もうひと組の母と娘のふたりはずっと店にいる。お母さんは女将さんとしゃべり続け、小3ぐらいの娘さんは店の外と中を行き来しては、母親に何か報告している。勝手知ったる我が家といった感じだ。

立体型お品書き
一字一字、プラ板を手で切って、台に貼り付けたとおぼしき立体型お品書き。店名のロゴとも合っていて、美学を感じますね。

機を見て、「お店はいつからですか?」と女将さんに訊いてみた。
「私らは30年ですが、先代からだと60年ぐらいですね」
「えっ、そんなに?じゃあ荻窪の『丸長』さんと同じ系列ですか」
「ええ、そうです」
「『丸長のれん会』にも?」
日本最古といわれるラーメン暖簾会だ。
「ええ。でも私らはお店があるから例会にはなかなか行けないですけどね」

和歌山から上京して食べたラーメンの記憶。

料理が次々にやってきた。

ラーメン&半チャーハンセット、餃子
ラーメン&半チャーハンセット750円、餃子450円。ラーメン丼には昔の電話番号が。ということは30年以上前。丼って結構持つんですね。

まずはラーメンをすすると、ああ、やっぱり「丸長」だ。麺が太めでむっちりしている。スープは豚骨がガツンときて、煮干しなどの魚も香る、いわゆるWスープだ。このシリーズ「麺店ポタリング紀行」でこれまで食べてきた、いわゆる昔ながらのラーメン――細めの麺で、醤油の香る、淡い味――とは一線を画す。関西人の僕からすると、東京の味だなと思う。
14年前に東京に来て、「大勝軒」で食べたときの衝撃。いまでこそ一般化しているが、10年以上前は、おそらく東京以外ではほぼなかった味だ。だから、関西、それも和歌山の田舎でサルのように育った僕にとっては、劇的に新しい味だった。
「東京はやっぱちゃうわあ。やにこう洗練されとるわ(やにこう=紀南弁で『非常に』)」と田舎もん丸出しの感想を抱いた。でもその味の“源流”をたどると、昭和20年代創業の店にいきつくのだ。
この麺ならつけ麺がよかったかな、とも思った。“源流”の荻窪「丸長」はつけ麺の名店だ。つるりとしてコシが強い麺は、モチモチというより、ムチムチ。つけ麺のほうがこの麺のよさが引き立つ気がする。

余談だが、モチモチやムチムチなど、日本語はオノマトペが豊富だ。逆に中国語は少ない。タピオカの食感は「QQ」と表記されるそうで(中国語じゃないじゃん)、台湾の食シーンで日常的に使われるのは、その「QQ」ぐらいだ、と台湾人翻訳者から聞いたことがある。食べものの話で世界一周を綴った拙著『洗面器でヤギごはん』の翻訳は本当に大変だったそうで、モチモチもムチムチもクニュクニュもムニムニも、すべて「QQ」にした、と彼女は話していた。

先客だった母と娘
先客だった母と娘。娘さんは自分の遊び場のように駆け回っていました。

餃子は噛んだ瞬間、細かく刻んだキャベツと肉が顆粒状に広がった。浜松餃子の「むつぎく」のようなタイプだ。そういや、餃子は、懐かしいとか新しいといった語られ方はしないな、と思った。具が豚肉とキャベツのオーソドックスなタイプだと、今も昔もない。
逆にラーメンは同じ材料でつくっても、まるで違う印象のものができる。考えてみると不思議だし、ラーメンが人を熱狂させる理由はそういうところにあるのかもしれない。

献立表
冷しチャーシューメンと冷し五目そばも気になります!

お母さんはなおも女将さんとしゃべっている。店主らしき男性が出前から帰ってきた。娘さんを見て「おー、○○ちゃん」と笑顔で声をかける。娘さんは相変わらず店の外と中を行ったり来たりしている。その中で食べていると、ふと、東京から遠く離れた田舎でラーメンをすすっている気持ちになった。

厨房
個人店が減りつつある昨今、夫婦だったり、親子だったり、家族で切り盛りする店も少なくなります。

外に出ると、夕暮れの気配が迫っていた。なんだか、まだ旅を終えられない気分だった。
そうだ、やり残していることがある……。

――つづく。

店舗情報店舗情報

丸長 豪徳寺店
  • 【住所】東京都世田谷区豪徳寺2‐31‐11
  • 【電話番号】03‐3420‐7789
  • 【営業時間】11:00~22:00
  • 【定休日】水曜
  • 【アクセス】小田急線「豪徳寺駅」、世田谷線「宮の坂駅」より5分

文・写真:石田ゆうすけ

石田ゆうすけさん.jpg

石田 ゆうすけ(旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。