五皿目はトマトと卵のとろとろ炒め。中国全土で食べられるている極めてポピュラーな料理なのに、店それぞれで味つけも趣きも異なり、ひとつとして同じものはない。「四川家庭料理 中洞」のそれは、香ばしく食欲をそそる「ねぎ油」が肝だった!
しっとりしたもの、カリカリに焼き上げたもの。
卵を細かく掻いたものもあれば、たっぷりと大きく掻いたものもある。
香菜やねぎが入ったり、塩味や醤油味も。
トマトを細かく切ったものや、大ぶりに形を残したもの、くたくたにトマトに熱を入れたもの、フレッシュ感を残したもの。
トマトと卵の炒めといっても、千差万別である。
「家庭のみならず、中国全土のどの店でも置いてあるほどポピュラーな料理なのに、店によってまるで違うんです」
「中国家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんは言う。
むっちりとした卵の弾力、噛みしめると汁気がしみだす櫛形の新鮮なトマト。
皿が運ばれてきたときから立ち上る香りと、卵の食感がとくに印象的な「中洞」の「トマトと卵のとろとろ炒め」もまた、オンリーワンの味わいがある。
「僕は、食事は箸で食べるのが好きなんです。だから箸で食べられるように卵の腰を残して火を入れ、トマトもわざと櫛切りにして、レンゲじゃなくても食べられるようにしています。味付けは塩味が中心。生姜が隠し味です」
では、この香ばしい香りは?
これほど素朴なのに、口に入れるとさらに食欲をそそる旨味は?
「ねぎ油ですね。いい香りをプラスしたくて、ねぎの香りを移した油を使っています。たっぷりの白ねぎを油で煮て、ねぎの香りが出てきても焦げる一歩手前まで煮続けるんです。時間でいうと15分くらいでしょうか」
単品でもおいしいし、ご飯がすすむおかずにもなる。
中洞さんのお薦めの食べ方は?
「肉料理を頼んで、このトマトと卵の炒めと一緒に食べてほしいですね」
じゃあ、明日は、ぴったりの肉料理を紹介してもらいましょう。
――明日につづく。
文:沼由美子 写真:森本菜穂子