六皿目は豚スペアリブの煮込み。日本で煮込みといえば醤油と砂糖が基本だけど、中国ではどうなのか。四川省流は?「トマトと卵のとろとろ炒め」と合わせて食べたいスペアリブの煮込みの秘訣は、店ごとで調合する煮汁にあるようです。
中国の四川省では、煮込み料理をよく食べるという。
日本で煮込みといえば醤油と砂糖とくるところだが、四川では塩、水あるいはスープ、そして香辛料が基本なのだという。
「四川家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんは言う。
「四川は岩塩の良質な産地として有名な地なんです。現地でもよく食べられている煮込みは、その塩を使い、香辛料がしっかり入ります。香辛料は多彩ですよ。たとえば八角や桂皮(けいひ/クスノキ科ニッキの樹皮)、フェンネルなんかがよく使われます。それらの煮汁を“ルースイ”というのですが、これがその店ごとの秘伝の調合で、煮込みの味の決め手というわけです。ただこれだけでは料理の色味が白っちゃけてしまうので、現地ではカラメルを入れるんです。単に色付けのためですね」
中洞さんは、現地であちらこちらのルースイも見てきた。
では、「中洞」のそれはどんなものなのか?
「塩、水に、定番の八角、桂皮、フェンネル、ローリエ。味をさっぱりとさせるカルダモンの実を乾燥させた白蔻(ばいこう)、肉の臭みを消す生姜科の植物の草果(ツォーゴォ)なんかを配合しています。すべて血行をよくする漢方ともいえますよね。日本で手に入らないものも多いので、香辛料は現地へ行って買ってきます」
では件のカラメルを「中洞」はというと、「砂糖と水を煮詰めて、焦げる一歩手前まで詰めたものを加えます。こうしてつくった煮込みは、色は濃いのにすっきりしているんです。ふっと入ってふっと抜けていくような」。
コクが豊かで香り高く余韻も長い、豚スペアリブの煮込み。
ビールが進む格好のアテになることも付記しておこう。
――明日につづく。
文:沼由美子 写真:森本菜穂子