二皿目は塩熟成豚バラの山椒香り炒め。仕上げの調味には山椒の粒しか入れず、ほぼ味付けはなし。なのに、なぜこんなに旨味が豊かなのか?
「一日よく働いて、体力を使ったなぁというときにこそ食べたくなる料理です」
現地でそう位置づけられているわけではないが、「中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんがそう語るのは、「小炒肉(シャオチャオロウ)」というねかせた豚肉を焼き上げたもの。
ビタミンも豊富な豚肉の凝縮した旨味を味わえるときたら、食べない手はない。
とはいえ、厚化粧の味付けをほどこすわけでなく、焼き上げるときには山椒の粒を入れるのみだ。
「豚肉のブロックに塩と香辛料を揉み込んで、3日間ねかせます。ブロックのままボイルして保存しておくんです。あとは切って焼いて、一気に豚の旨味を引き出すだけです」
四川でポピュラーなのは、焼いた豚肉に青唐辛子のみを添えるスタイル。でもそれではあまりに辛すぎるし、日本では同じ青唐辛子が手に入らないこともあって、中洞さんは国産の旬の野菜添えてアレンジをしている。
「僕自身、焼き肉は好きで疲れたときに食べたくなるのですが、牛肉は次の日になるとちょっと重く感じてしまって。でも豚肉だとその重さがないんです」
程よい塩気と刺激は、いい酒の共にもなる。今日の疲れを癒し、明日への英気を養う一品なのだ。
――明日につづく。
文:沼由美子 写真:森本菜穂子