赤提灯の陰に神林先生の姿あり。先生の言う「飲み倒れ」は、倒れるまで飲むことにあらず。「大坂の食い倒れ、京の着倒れ、江戸の飲み倒れ」の三倒れにたとえられる精神で、「飲むことに人生を懸ける」情熱からそう称している。浅草の深き食文化を伝えたい思いから、独自の視点で偏愛店をランキングするミニコミを刊行するまでに。浅草の奥の奥まで知り尽くす神林先生が理想とする「ひとり飲み」の条件とは?
神林桂一と申します。
64歳。都立浅草高等学校で国語の教員をしています。
生徒からの呼び名は「かんちゃん」(下町の生徒たちはフレンドリーです)。
下町の勤務が多かったこともあり、浅草を中心に「食べ歩き・飲み歩き」を続けてきました。
現在、浅草エリアで訪ねた店の数は1030軒です。
その体験をもとに、僕はミニコミをつくり、職場に配っています。
せっかくいい個人店が多い浅草にいながら、チェーン店以外はあまり行かない若い教職員が多かったからです。そのミニコミが地元の飲食店でも話題となって幸運にも、月刊『dancyu』の編集部の目に留まり、2018年5月号「美味下町。」特集で4ページにわたって紹介していただきました(この号は名作です!)。
2019年2月開催の「浅草観音裏 酔いの宵」という飲み歩きイベントでは、10日間に74軒を制覇してチャンピオンに。賞金1万円と名前入りジョッキを獲得しました。体重も4kg増えましたが。
そんな僕が、とっておきの「ひとり飲みの店」25軒をご紹介します。
職場の人たちに推薦するためランキング形式になってはいますが、これは「ひとり飲み」に限った場合の僕の主観にすぎません。
すべてオススメの店ばかりですので、悪しからず(掲載店の皆さん、怒らないでね)。
近年、浅草は外国人観光客が激増し、かつての賑わいを取り戻した感がある。しかし、観光客向けの店が立ち並ぶ「表」で浅草の本当の魅力を見つけることは難しい。「観音裏」と呼ばれる浅草寺裏の花街にこそ多くの名店が潜んでいる。
と同時に、この地域は、小さな、粋な、居心地のよい「ひとり飲み」の店の宝庫でもあるのだ。
僕が思うひとり飲みに適した店の条件は、第一に「人」だ。
Ⓐ「名物女将と話ができる店」、あるいはⒷ「寡黙で腕のいい大将がいる店」が望ましい。
次に、©「カウンターで飲める店」というのも大切な要素だ。
もちろんⒹ「いい酒が揃う店」、Ⓔ「肴が充実している店」という条件は欠かせない。
実は、僕の敬愛する居酒屋探訪家・太田和彦氏は「居酒屋三原則」として、「いい人、いい酒、いい肴」を挙げていらっしゃる。僕は、この「人」の中に「客」の存在も加えたい。
Ⓕ「主人や客との会話が楽しめる店」、とくに「地元店の情報交換ができる店」もひとり飲みの大きな愉しみだからだ。加えてⒼ「渋くて落ち着いた雰囲気の店」がいいことは言うまでもない。
しかし逆に、
Ⓗ「さんざめき(心地よいざわめき)の中で飲むことができる店」も忘れずに挙げておきたい。
次回は、いよいよ店の紹介へと入ります。
――明日につづく。
文:神林桂一 写真:大沼ショージ