3月。花粉がふわふわと漂う季節となりました。花粉症。悩める人が多い昨今、少しでも楽しそうな名前であってほしいですよね。ひょっとこ、なんてどうでしょう。今年からひょっとこになっちゃってさ。なんて言うと、少しはつらさも紛れないですかね。
女王、あなたもでしたか。
その事実を目の当たりにした瞬間、暗闇の中で、思わず声が出そうになった。
アン女王も痛風だった。
女性はなりにくいと訊いていたので意外な気もしたけれど、お互い苦労しますねぇと、300年以上も前の一国の主のことが愛おしく、身近な存在に感じられた。
『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンは本当につらそうだった。旺盛な食欲と性欲は意外な気もしたけれど、薦められたワインは断っていて、そうですよね、ためらいますよねぇと、ビールを躊躇する瞬間の悲しい気分が甦ってきた。
もうひとつ意外だったのが、患部に生の牛肉を貼っていたこと。
へぇ、馬肉じゃないんだ。18世紀のイングランドでは、痛風治療の最先端は牛肉だったんだな。
痛風は本当にしんどい。でも、罹って思うのは、そのネーミングの素晴らしさ。
病名(本当は通称だけれど)を口にするとき、悲壮感と一緒に不思議とユーモアが漂うから、たまらない。
編集を生業にしている身としては、そのセンスは見習わないとなぁ。
僕は子供の頃、カレーは辛いからその名前がついたと思っていたし、ステーキは素敵から名付けられたと思っていた。
あるとき、そうではないと知り、途端に世界がつまらなく感じられて、ちょっとの間、投げやりな小学生になってしまった。
痛風は痛風ではないと、意味がない。
由来には諸説あるらしいけれど、風が吹いても痛い、がいい。そうじゃないと、せっかくの痛風が、痛いだけになってしまうからね。
もう、風が吹いても大丈夫。
また歩き始めます。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:湯浅亨