「EST!」のカクテルブック
ざくろとカルヴァドスの高貴な味わい"ジャックローズ"|「EST!」のカクテルブック3杯目
ジャックローズ ジャックローズ

ざくろとカルヴァドスの高貴な味わい"ジャックローズ"|「EST!」のカクテルブック3杯目

ルビーを思わせる鮮やかな色合いのジャックローズ。冬のカクテルの代表格である。このカクテルが飲めるのは3月上旬まで。弥生。冬の名残と春の到来を感じながら、マスターの言葉に耳を傾ける。

カリフォルニアからイランへ。味わいが変わる“ジャックローズ”。

グラスひたひたに注がれたルビー色の液体。その美しさに軽いため息がこぼれる。シェイクをしたてのジャックローズは表面に軽い泡が立ち、グラスの脚に手を触れるそばから喉が鳴る。

渡辺昭男さん
カウンターに立つマスターの渡辺昭男さんは現在、骨折後のリハビリ中。「EST!」は次男の宗憲さんが守っている。

このカクテルが登場するのは、毎年10月の後半頃。艶のある輝きを放つざくろの実をたっぷりと搾って惜しげなく使うので、果実本来の味わいがカクテルの仕上がりを大きく左右する。
秋口は、その頃に旬を迎えるアメリカのカリフォルニア産を。酸味があってキュッと口がすぼまるような味わい。晩秋から冬へと向かえば、イラン産に変わる。
「お砂糖は入っていません。濃厚な甘さは自然のままです」という言葉を添えて差し出されても、ひと口飲めば「ほんとに?」と聞き返したくなるような甘味。
冬が本格化するほどに、濃密な味わいへと変化を遂げる。移り変わる季節とともに愉しめるのも、味わいどころである。

シェイク
マスターのしなやかな所作。シェイクのスタイルもバーテンダーによってそれぞれ。小気味よい音が店内に響くと、プロの仕事をつい目で追ってしまう。

搾りたての果汁を存分に味わえるシャンペングラスで。

「ざくろの果汁は、実を一粒一粒外して大きなボウルに入れまして、布巾で包んで搾っていくんです。とても手のかかる作業です。せっかく搾ったこのジュースを、色づけ程度に使うのではなくたっぷり召し上がっていただきたい。だから、量もたっぷり入るシャンペングラスに注いでいます。見た目のよさを重視したらそうなったのです。口元を近づけたときにふわりと漂う華やかな香りも愉しんでください」

材料
カルヴァドス(「EST!」では“ブラー グランソーダ―ジュ”を使っている)60mlと、ざくろ果汁を同じだけ。レモン果汁は15~20ml。
注ぐ
材料をすべてシェイカーに入れる。レモン果汁の量は、ざくろの状態によって調節する。
シェイク
シェイク。シェイカーが冷たくなるのが目安。
シャンペングラス
シャンペングラスに、たっぷりと。「鮮やかな色味も、濃厚な甘味も、自然のもので手を加えていません」。

――つづく。

店舗情報店舗情報

EST!
  • 【住所】東京都文京区湯島345-3 小林ビル1階
  • 【電話番号】03-3831-0403
  • 【営業時間】18:00~24:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】東京メトロ「湯島駅」より1分

文:沼由美子 写真:渡部健五

沼 由美子

沼 由美子 (ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。