「EST!」のカクテルブック
潤いをもたらす"ボストンクーラー"|「EST!」のカクテルブック16杯目

潤いをもたらす"ボストンクーラー"|「EST!」のカクテルブック16杯目

ラムベースの爽快なロングカクテルは夏にさっぱりと飲むのにもいいが、乾燥した冬に味わうのもまた別のよさがある。それは、柑橘が香る「EST!」の“ボストンクーラー”ゆえのこと。

乾いた喉や細胞にしみ渡るような1杯。

酉の市が終わった翌日は、「EST!」の名物カクテル、温かい“アイリッシュコーヒー”の解禁日だ。
テーブル席の壁に掛けられるタペストリーが、アイリッシュコーヒーを愉しむ白髭の男性の絵柄に変わったら、「アイリッシュコーヒー始めました」の合図である。

ウイスキーの生産地から白髭の男性のタペストリーに変わったら、今年も“アイリッシュコーヒー”が始まる。

冷え込む季節になってきたなら、本来温かいカクテルで体を温めたいところ。けれど、乾燥した冬の空気にさらされた1日の終わり、1杯目は爽快なロングカクテルもいい。
たとえば“ボストンクーラー”。柑橘が香る清涼感のあるものなんてぴったりだ。

レモンの酸味とほのかな甘味。ラムの香りとそれをまとめる炭酸の爽快感。
冷たいロングカクテルは暑い季節に愉しむのがうってつけだけれど、乾いた喉や細胞にしみ渡るようなおいしさがある。

ボストンクーラー

オレンジピールの豊かな香りが「EST!」の決め手。

マスターの渡辺昭男さんが教えてくれた(現在マスターはリハビリ中で、バーは息子の宗憲さんが守っています)。
「アメリカ西部のデトロイトという工業地帯にある『ボストン大通り』のアイスクリーム屋から発祥したので、この名前がついたと聞きます。はじめは、ジンジャーエールの上にクリームを浮かべただけのノンアルコール。それからクリームの代わりにアイスクリームを浮かべるようになり、やがてアルコールの入るカクテルとして広まったようです」

ベースのラムは、3年熟成のキューバ産のホワイト・ラム“ハバナクラブ”。オーク樽で熟成したのちに濾過したもので、軽やかな甘さ、フレッシュな味わい。
搾りたてのレモンジュース20mlをシェイカーに注ぐ。
ホワイト・ラム45mlを加える。
甘味はシロップではなく砂糖で。1g弱ほどを入れる。
グラスに氷を入れ、冷やしておく。
シェイカーに氷を入れ、シェイクする。
先のグラスに注ぎ、ジンジャーエールでアップ。軽くステアする。
オレンジピールを軽く絞って振りかける。

ボストンクーラーはラムがベースのカクテルで、レモンジュースが入り、ジンジャーエールでアップして完成だ。
ジンジャーエールの代わりに炭酸水を用いるところもあるが、オレンジピールが登場するのが珍しい。

「オレンジピールの香りをまとわせると香りが豊かになるし、見た目もいいでしょう」

マスターの言葉どおり、このカクテルのオーダーが入ると、カウンターは一瞬でオレンジのアロマに包まれる。
味や酔いだけでなく、爽やかな香りでも潤いをもたらしてくれるカクテルである。

ボストンクーラー

――つづく。

店舗情報店舗情報

EST!
  • 【住所】東京都文京区湯島345-3 小林ビル1階
  • 【電話番号】03-3831-0403
  • 【営業時間】18:00~24:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】東京メトロ「湯島駅」より1分

文:沼由美子 写真:渡部健五

沼 由美子

沼 由美子 (ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。