「ネパール居酒屋 モモ」で舌鼓を打った後は、同じビルの1階にあるネパール系ハラルフードショップへ。そこで店主から手渡された1枚のチラシ。ヒンズー教寺院の案内だった。イスラム横丁探索の締めに、お寺へと向かった!
「バラヒ フード&スパイスセンター」は、「ネパール居酒屋 モモ」のオーナーでもあるブサン・ギミレさんが営む、食材と雑貨を扱う店。ちなみに“バラヒ”とは、ネパールの都市・ポカラにあるペワ湖の中央に浮かぶお寺のこと。
店内は間口が狭く、鰻の寝床のようだが、壁面の棚にはスパイスや豆類、調味料にお茶、菓子などさまざまな商品が天井近くまで陳列されていた。
デビさんが“ティムル”を差し出してくれる。真っ黒な粒々がぎっしり詰まって50g300円。冷凍庫にはオーストラリア産の冷凍山羊肉も。骨付き、皮付きで1kg1,200円。“ティムル”と一緒に炒めるのもお薦めよ、とデビさんは教えてくれた。
ネパールにしかない“ラプシ”という酸味のある果実を使ったアチャール(漬物)は、横丁ではここでしか手に入らないらしい。レジの上の棚には、商売の神様であるガネーシャの置物が。1個800円と求めやすい価格なので、お土産に買っていく日本人もいるそうだ。
店主のギミレさんにお店を開いた経緯をお聞きした。
母国で新聞記者をしていたギミレさんは2002年、上智大学新聞学部の客員研究員として来日。3年の研究を終えて母国に帰る予定だったが、ネパールの政情が不安定だったため、日本に残り、輸入食材店を始めた。当時はネパール人向けの食材店が東京にほとんどなく、いつしか在日ネパール人が集う店になっていく。今ではネパール人向けの新聞を発行したり、荻窪にネパール人のための学校を開校したりと、さまざまな方面で活躍している。多忙な毎日の中で、心安らぐのが“祈りの時間”。「誰でもお祈りができるヒンズー教のお寺がこの近くにあるので、ぜひ寄ってみて」と、ギミレさんが1枚のチラシを手渡してくれた。
イスラム横丁に別れを告げ、大久保駅の方へてくてくと歩く。狭い小路を抜けると古いビルの1階にガラス張りのスペースがあった。夕闇の中に蛍光灯で照らされた部屋が白く浮かんでいる。
「シワマンディル トーキョー」。ヒンズー教の寺院だ。室内を覗くと、シヴァ神像がこちらを向いて微笑んでいる。このときは残念ながらクローズしていたが、7時から12時、17時から20時は開放され、誰でもお祈りができるという。私たち一行はガラス越しにシヴァ神に手を合わせ、とんでもなく充実した気持ちで、駅へと向かった――。
イスラム横丁と一口に言っても、そこで働き、暮らす人たちの国籍や信仰はいろいろだった。さまざまな事情を抱えながら東京で力強く生きている彼らに出会い、私たちもたくさんパワーをいただきました。もちろん、おいしいものもた~っぷりと!ビクビク怖がってゴメンナサイ。みなさん、明るくフレンドリーでした。また近いうちに、未知なる美味を探しにお邪魔しま~す。
取材を終えて何週間か経った頃、テレビで、2019年の新宿区の新成人は外国人が約半分を占めていた、と報じていた。「新宿八百屋」の荒巻秀俊さんの、「新宿区は外国の方なしでは成り立たない場所なんです」という言葉を思い出す。
今の時代、外国の人たちも日本の社会を構成している一員だ。習慣や文化、宗教の違いですぐに打ち解けるのが難しいことも、あるかもしれない。それでも、私たちの未来の選択肢は「共存」一択だ。
誰だったか偉い人がこんなことを言っていた。「食は最も有効な安全保障だ」と。イスラム横丁で買って食べて「おいしいね」と伝えるだけで外国の人たちとすんなり打ち解けられたし、お互いピースフルな気持ちになった。今回の横丁訪問で、それを強く強く感じた。
「平和って、案外そういうことなんじゃないの?」。能天気だ、単純だと言われようが、そう思うのだ。
――つづく。
次回は、新大久保イスラム横丁を飛び出して、パキスタン人コミュニティがあるという埼玉県八潮市へと向かいます!
文:佐々木香織 写真:阪本勇 イラスト:UJT(マン画トロニクス)