dancyuが毎年冬に日本酒特集を組むようになって、今年で20年。3月号では全国729蔵の酒蔵アンケートから見えてきた「今の日本酒」の姿を、まるごとお伝えいたします。
立ち飲みは魔物だ。立って飲む、というスタイルの気軽さに誘われ、一杯のつもりが、去り際には足腰フラフラ、もう立ってられません、なんてフツーである。
言い換える。良き立ち飲みは魔物だ。けれど魔物には抗えないのが人、つまりは呑んべえなのである。もっといえば、街を彷徨うときは、そんな魔物に出会うことばかり願っている。いないかな、魔物。
で、近頃そんな魔物のごとき、“良き立ち飲み”が急増している。今時素敵系立ち飲みの特徴は、おおまかにいって三つ。一つには日本酒の銘柄が豊富。二つには肴が旨い。三つ、店も小綺麗。心技体、走攻守、守破離?ん?。とにかく三拍子揃っている。
だからなのだ。「東京の立ち飲み5軒行脚」なんてことを思いついてしまったのである。はーい、酔狂、よーいどん!
というわけでまずは、1軒目、三軒茶屋の「コマル3」へと向かった。
三軒茶屋からそこそこの距離を歩き、間違えたかなと思う頃、ふわっと姿を現すのがこの店だ。
そして、いきなり顔がほころんでしまった。カウンターが馬蹄形もといコの字酒場なのだ。この形、ぐるりと酔き笑顔に囲まれながら飲める、ということなのである。この時点でもうたまらんのだが、冷蔵庫を見て驚く。
ずらり並んだ一升瓶。日本酒の品揃えは常時70種を数えるというのだ。いっぺんに全部飲んだら天国まっしぐらなので、夢見心地で迷う。もちろん相談してもいい。酒好きのスタッフの言葉は的確で、こちらのツボをきゅっと押すような一本を選んでくれるのである。
そうして手にしたのは「酔楽天 大吟醸」限定醸造の一杯だ。ぐっとやり、いよいよつまみを選ぶが、これがまた迷う。黒板にずらっと旨そうな文字が並ぶ。数えたら30ほどあって、さらに迷わせるのが、カウンターの内側から漂うおでんの香りである。
鰹節と目刺しを目の前にしながら、背後でマタタビを焚かれている猫みたいな気持ちでようやく選んだトロといぶりがっこの極上バクダン。
ことのほか冷たい酒によく合い、「もう行脚なんかしないで、ずっとここにいたらいいじゃない」「ダメ絶対」と脳内でのせめぎ合いが早くも始まったのだが、必死に後ろ髪を断ち切る。そして向かった2軒目が、学芸大学の「圭」であるーー。
加藤ジャンプさんが巡る、東京の立ち飲み行脚はまだまだ続きます。ぜひ本誌を御覧ください!
文:加藤ジャンプ 写真:本野克佳