“Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)”でつくられたチョコレートは、甘いのか、苦いのか、酸っぱいのか、それとも思いもよらない未知の味か!?チョコレートの知られざる魅力を「Minimal(ミニマル)」の山下貴嗣さんが大いに語ります。
僕が新卒で入社した会社は食とは関係がない、経営コンサルの会社でした。いつか日本人の丁寧な手仕事を世界に発信するブランドをつくりたいと思っていて、30歳で独立することだけを決めていたんです。
何をテーマにしようか探っていたとき、ビーン・トゥ・バーのことを知って、興味をもったんですね。実際にチョコレートを食べてみると、原材料はカカオ豆と砂糖だけのはずなのにオレンジのような香りがして、新鮮でしたね。カカオ豆本来の香りだと聞いて、衝撃を受けました。
西洋発のビーン・トゥ・バーを日本人のきめ細やかさを活かして、捉え直すことができたら面白いんじゃないかなと考えたんです。
勤めていた会社を辞めて、インドネシアやコロンビア、ベトナムなど、できるだけたくさんの産地のカカオ豆からできたチョコレートを食べてみました。今度は、味わいのバリエーションに驚きましたね。もうビックリしっぱなしです(笑)。
フルーティな香りだけでもベリーや柑橘系、青リンゴなど、カカオ豆によってはっきりと違うんです。ドライミントの清涼感や木の香りも感じました。まさに新しいチョコレートとの出逢いでしたね。
僕たち「ミニマル」のテーマは、どうやってビーン・トゥ・バーに日本人的なエッセンスを取り入れるか。
大切にしているのが“引き算”の考え方です。カカオ豆そのものの香りを残すために、工程は本当に必要なことだけに絞っています。カカオ豆は、チョコレートの食感がザクザクとするぐらいの粗挽きです。僕たちがつくるチョコレートは、噛むたびに口のなかでカカオ豆が弾けて、香りが広がるんですね。
その分、チョコレートの仕上がりはカカオ豆の香りに大きく左右されることがあります。
カカオ豆は同じ農園、同じ品種でも、麻袋が違えば味わいが違います。千差万別というよりも一期一会。
天・地・人って僕は言うんですけど、なにかひとつでも環境が違えば、別物のカカオ豆なんですよね。だから、面白い。チョコレートの味わいから、カカオ豆が育った環境や、つくり手に思いを馳せる。そこにビーン・トゥ・バーの醍醐味があると思います。
仕入れられたカカオ豆は、どのようにしてチョコレートに加工されていくのか。次回はビーン・トゥ・バーの過程を紹介します!
文:河野大治朗 写真:萬田康文