陽が高いうちから、伊勢の酒場の入口「一月家」で飲んで食べて、大満足。さて、次は出口を目指しますよ。歩くこと数分。「美鈴」の暖簾をくぐります。小さな店内は、清潔感と活気にあふれていて、ほろ酔い気分はさらにごきげん。長居は無用。土産を手にして、外へと出れば、すっかり暮れた伊勢の空。
入口が見つかったら、次に欲しいのは出口として必ず寄りたい店である。伊勢には出口に最適な素晴らしい店もある。少なくともぼくが知っている伊勢周辺出身の友人たちは、子供時代の思い出とともに、この店「美鈴」のことを自慢する。
居酒屋でもあるし、軽い食事処でもあるが、何よりも家で食べるための餃子をテイクアウトしていく店なのだ。だからよく親に連れていかれたとか、酔った父親の手みやげの定番だったとか、その手の話を聞かされる。コの字のカウンターの中で、家族と思しき数人が見惚れてしまう連携で動きまわっている。それだけでも充分にいい肴だ。
メニューは焼き餃子と水餃子、おでん、から揚げ、カニクリームコロッケ、そしておにぎり。ひっきりなしにテイクアウトの客が戸を開けて、注文をしていく。その後はビールを飲みながら出来上がりを待つ人もいれば、外に停めた車の中で待つ人もいる。ぼくはあまりビールを飲まないけれど、さすがにこのメニューならば瓶ビールを頼む。ちびちび飲みながらおでんをつつき、から揚げのハーフと焼き餃子を待つ。水餃子をスープ代わりに頼むのもいいだろう。
翌日は伊勢神宮に早朝参拝の予定だから、適当に切り上げたい。持ち帰り客の出入りはひっきりなしだし、長居する客も少ない店だから、会計をしてもらうタイミングを見失うことがない。そうだ、おにぎりのテイクアウトを忘れてはならない。おかかと梅干しと鮭。小さめのおにぎりが3つとタクアンがセットになっている。翌日の朝ごはんを買って帰れるという意味でも、素晴らしい出口なのである。
そういえば「美鈴」でカニクリームコロッケだけ、まだ食べたことがない。それを思い出すのは、持ち帰ったおにぎりの包を開く時。包装紙には大きな鈴の絵と店名とメニュー名とが印刷されている。しかし「美鈴」でカニコロを食べるためには、「一月家」のカレーを諦めなければならない。果たしてそんなことがぼくにできるだろうか?