
伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり連載。前回に引き続き番外編です。普段は撮影を担当する牧田健太郎さんは釣り上げた高級魚を都内の飲食店に卸しているほどの「釣り師カメラマン」。料理の腕もプロ級で、自ら釣ったクエでハムを自作するほど。今回は牧田さんが海で釣ってきた2種類の魚(イサキ、オキメジナ)を干物にして、夏野菜を組み合わせて美味しく料理してくれました。釣り好き、魚好きは必見です!
今年も暑くなりそうだ。我らが干物師匠である、伊東の干物専門店「島源商店」の内田清隆さんは早朝など少しでも涼しい時間帯に狙って干物づくりに勤しんでいる。こんな時期にお店を訪問して教えてもらうのは心苦しいな……。 でも、僕たちの身近には心強い「副師匠」がいる。釣りも料理も得意なカメラマンの牧田健太郎さんだ。仲間と共同で釣り船を保有し、撮影の合間を縫っては釣りに出かけている牧田さん。釣師というよりも漁師に近い。なぜなら、クエなどの高級魚をきちんと活け締め&保冷して持ち帰り、都内の人気店に卸しているからだ。 「代金はもらっていませんけどね。1つは居酒屋なので自家製ベーコンなどと物々交換をしています。もう1つは江戸前鮨店。僕たちが飲みに行ったときは会計を安くしてくれます(笑)」 牧田さんが静岡県の御前崎沖で釣ってきたのはオキメジナとイサキ。夏を代表する魚であるイサキの干物は本連載でも紹介し、純米酒「ヒモノラ」との抜群の相性に驚いた(記事はこちら)。でも、オキメジナって何だろう? 「メジナの仲間ですが、冬が旬のメジナに比べるとオキメジナは夏のほうがよく獲れるし、メジナのような磯っぽい匂いもありません。刺身でも美味しい魚です」


「釣りにハマったのは30歳を過ぎてからです。船釣りをするようになって、ビックリするような大きな魚が釣れたりしました。しかも、その魚がどのへんの海に泳いでいたのかを知ることができて面白い。同じ魚種でも個体差があることもわかり、どんどんハマっていきました」
釣りの魅力を語ってくれる牧田さん。海がやたらに似合う人だけど本業はあくまでカメラマンで、都内で「マッキナキッチンスタジオ」も運営している。公園の隣にあって自然光がたくさん入るスタジオだ。オキメジナとイサキはここで干物にしてくれた。
三枚におろしたオキメジナとイサキのフィレ(切り身)に塩を当て、脱水シートに包んで冷蔵庫へ(脱水シート干しの記事はこちら)。一晩置いたら、シートを外して室内でガラス越しに90秒間ほど直射日光にさらし、さらに日陰に移してエアコンの風に当てる。押して指紋がつく程度に乾いたら完成。
「日光に当てたのはおまじないみたいなものです。今日はあまりに日差しが強いので90秒で限界だと感じました」



干物ができたら今度は夏野菜を使ったソースづくり。料理カメラマンとして全国各地の一流店を取材している牧田さんは常にアンテナを立て、自作料理にも生かしているようだ。
「ピーマンのソース、トマトのソースをそれぞれ作って、干物に添えましょう。明石の人気居酒屋のメニューから着想を得ました。というか、ほとんど真似です(笑)」
ソースのつくり方は簡単だ。ピーマン1個と青唐辛子1cmぐらいをそれぞれみじん切りして、酢(ワインビネガーでも良い)小さじ2、塩小さじ3分の1を加えて混ぜる。トマトソースは、トマト1個をみじん切りして塩小さじ3分の1を加えて混ぜる。以上だ。
両面を良く焼いたオキメジナとイサキの干物に2種のソースをのせ、オリーブオイルをかけ、レモンを添えた。地味になりがちな干物がグリーンとレッド、レモンイエローで鮮やかになった。


ピーマンソースのほうは、青唐辛子は1cm程度の少量で正解だと思った。辛さよりもピーマンのみずみずしいほろ苦さが際立ち、干物の脂とオリーブオイルと爽やかに融合した。
「旨い! これは日本酒よりもワインに合うでしょうね。ジンもありかな?」
バーテンダーとして働いていたこともある牧田さんが自画自賛しながらマリアージュを考えている。多芸多才な人だな……。
トマトソースがこれまた良い。トマトの甘味と汁気が塩味を和らげていて、皮の下に強い旨味があるオキメジナとイサキの干物を優しく包んでくれた。
夏に旬を迎える魚たちの干物に夏野菜のソース、お好みでレモンをかけて食べる。今年何度目かの夏バテも解消できそうな料理だと思った。
三枚おろしにした魚で干物や料理をつくると、あらがたまってしまう。すなわち、頭・カマ・骨だ。大きなあらは塩焼きや煮つけで一品料理になるけれど、中型以下の魚のものはまとめて使いたい。
大漁の経験が数知れない牧田さんはあらでスープをたっぷりつくることが多いらしい。今回はやはり釣果のオオモンハタという高級魚を使ってすまし汁をつくってくれた。
「新鮮なので味噌で匂いを隠す必要はありません。昆布、酒、塩で調味するだけで十分に美味しい汁になります」
あらは捨てられることも多い部分なので、ここは惜しげなく贅沢に使おう。小鍋からはみ出すぐらいに入れて加熱し、あくを除去。あくが出なくなってから5分後に火を止める。薄口しょうゆで味を調えれば完成だ。
一口すすると、魚のだしの風味がフワッと広がった。臭みなんてまったくない。胃が安らぎ、気分が落ち着くのを感じる。小腹がすいていたら、ゆでた素?を入れても良い。
新鮮な魚のすまし汁は日本人の原風景の一つなのかもしれない。三枚おろしの楽しみが増えた。



1968年、東京・南麻布生まれ。バーテンダーやシャンプーボーイなどを経て、カメラマンの浦川一憲(IKKEN)氏に師事した後、独立。仲間と釣り船を保有し、暇を見つけては釣りに出かける。釣果は都内の和食店などに卸すことも。料理することも大好きな食いしん坊。
文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎