刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
【番外編】疾走する船の風と太陽で釣ったスルメイカを乾かす「船上干し」は、釣り師ならではの"究極の一夜干し"だ!!

【番外編】疾走する船の風と太陽で釣ったスルメイカを乾かす「船上干し」は、釣り師ならではの"究極の一夜干し"だ!!

伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり連載の番外編。普段は撮影を担当するカメラマン牧田健太郎さんが仲間と所有する船で静岡県御前崎沖へ!夏に旬を迎えるスルメイカを釣り上げて、船の上で潮風と太陽にさらして乾かします。味付けは海水の塩味だけ。弾力のある歯ごたえと豊かな風味を味わえる、釣り師による極上の干物づくりを見せてもらいました。

船の前のほうに干すと、波しぶきを浴びやすいので干物の塩が強くなる

風がないときは仕事を置いてでも船に乗りたいほど海釣り好きな牧田さん。究極の干物づくりは天日干しならぬ「船上干し」だと断言する。凪いでいても、疾走する船の上では適度な風があるのだ。朝から釣り始めてさばいて干しておけば、港に戻る頃には一夜干しに近い状態になっているという。
「船の前のほうは波しぶきを浴びやすいので干物の塩が強くなります。船の後ろに干しておいたものと食べ比べるとよくわかりますよ」
仲間と共同で船まで所有する牧田さんが今回釣ったのは夏に旬を迎えるスルメイカ。現在は漁獲量が減ってしまっているけれど、日本人にとって最もなじみ深いイカであり、その多くが干物(するめ)に加工されることからスルメイカという名前が付いた。刺身、煮物、焼き物と万能だが、たくさんあるときは干物にすれば長持ちする。塩分少なめで生っぽく仕上げれば、酒肴だけでなくおかずにもなる。

釣れたてのスルメイカ
釣れたてのスルメイカ。意外なほど狂暴なので噛まれないように注意!

使うのは胴のみ。味付けは海水のみ。船上でつくるシンプルかつ最高に贅沢な干物

「イカを釣るときはエサは要りません。小魚を模したツノ(餌木)を使います。今回のスルメイカは200メートルぐらいの深場で釣りました。イカがツノを小魚と間違えて抱きかかえると、ググっと重くなるんです。その感覚がイカ釣りの楽しさですね」
簡単そうに聞こえるが、実際にやってみると感覚をつかむのが難しい。僕は三河湾の港で友人にイカ釣りを指南してもらったことがあるが、ついに一匹も釣り上げられなかった。牧田さんによれば釣れてからも注意が必要らしい。
「イカにはたくさん種類がありますが、スルメイカが一番凶暴だと僕は思っています。噛まれたら血が出ますよ。胴と切り離して頭だけになっても噛んできますから要注意です」
スルメイカのさばき方は以前に島源商店でも教えてもらった(記事はこちら)。今回は牧田さん流。船上なので手間のかかる頭部は使わず、胴のみを開いて干物にする。

1イカをまな板におく

エンペラを下にしてイカをまな板の上に置く。

イカをまな板におく

2胴を切り開く

ハサミかナイフで胴を縦に切り開いていく。内臓を傷つけないように注意する。

胴を切り開く

3頭と内臓を取り除く

頭と内臓はくっついているので手で引っ張ってまとめて除去する。ゲソや肝は美味しく食べられるので海に戻さずに氷で冷やして持ち帰る。

頭と内臓を取り除く

4骨と残りの内臓を取り除く

透明で細長い骨のような甲(こう)の他に、エラや心臓が胴に残っているので取り除く。

骨と残りの内臓を取り除く
骨と残りの内臓を取り除く

島源商店では塩分濃度7%の塩水にくぐらせたが、牧田流はシンプルに「海水の塩味」だけ。竹串などを使い、船上のロープにかけて干す。
「半日もすれば干し上がります。それでも身の内部には水分が残っているので、ビニール袋に入れて持ち帰ると湿気がこもって身に水分が少し戻ります。すぐに焼いて食べてもいいし、ラップして冷凍もできます」

イカ
イカ

カリカリにしないのが旨さの秘訣。噛むほどに溢れる、濃厚な味

船上でも見事な「串打ち」の技を披露していた牧田さん。釣行前に立ち寄った串焼店でもらった使い古しだというこの串、自宅でイカを焼くときにも活躍する。
「イカは焼くとくるくる曲がって火に近くなったところが焦げてしまいます。串を打って均等に焼きましょう」

イカ
イカ

焼き終えたイカを少し冷ましたら、手で食べやすい大きさに割く。七味を振りかけたマヨネーズを付けるのが定番だが、牧田さんのお勧めはおろし生姜とマヨネーズを1:1の割合で混ぜた生姜マヨネーズだ。
牧田さんが釣った肉厚なスルメイカの干物。適度に凝縮しているけれど、カリカリではない。海水だけなので塩もほんのり感じる程度で、噛むほどに旨味が出てくる。
「相変わらず美味しいなあ。船上干しはイカの味を一番濃く味わえると思っています」
満足げに噛みしめている牧田さん。確かに、濃厚な味だ。海水のみの薄味なのでイカの味が明確に感じられる。イカ好きはたまらないだろう。残りはマヨネーズなしで食べようかな。

イカ
【大宮冬洋の干物日記】蒲郡の魚と蒲郡のクラフトビール、門前仲町の燻製バルで味わえます
【大宮冬洋の干物日記】蒲郡の魚と蒲郡のクラフトビール、門前仲町の燻製バルで味わえます
○月△日
三河湾の最奥部に位置する愛知県蒲郡市。低利用魚などを漁師や仲買人から仕入れてさばいてご近所と分かち合う「鮮魚部」活動を楽しく続けている。この「干物日記」でもたびたび紹介しているので、「蒲郡の名もなき魚を食べてみたいな」という読者もいるかもしれない。その一人が、東京・門前仲町で燻製バル「KoO」を営む小川興次郎さんだ。
「大宮さんがさばいた蒲郡の魚を干物にして送ってもらえませんか?僕が燻製にします。蒲郡のクラフトビールとセットでお客さんに味わってもらいましょう」
あまりに光栄な提案だが、人気魚種では面白くないし高くついてしまう。東京の人はまず食べたことがないけれど工夫すれば美味しい低利用魚を仕入れたい。
そこで僕が思い出したのが梅雨どきからたくさん獲れ始めるギマ。見た目はカワハギに似ているけれど、大量の粘液・分厚い皮・3本の硬いツノがあってさばくのは大変だ。網にかかると外しにくいし、安値しか付かないので漁師には好かれていない。
でも、筋肉質で身離れも良くて旨みがあるので煮物は絶品。みりん干しもいいと聞いて、何度か実践して、鮮魚部メンバーにも好評を得ている(日記はこちら)。
ギマならば面白いし、僕も自信を持って小川さんに提供できるぞ。この「蒲郡偏愛セット(仮)」は6月8日~14日の1週間限定で「KoO」のメニューに入る。「深川・門前仲町バル街~ハシゴ酒WEEK~」というイベントでの企画らしい。興味がある人がチケットを購入してKoOを訪れてほしい。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。