
連載のトップバッターは、ポルトガル料理店「クリスチアノ」をはじめ5店舗の飲食店を運営するほか、食の業界で縦横無尽に活躍する、佐藤幸二さん。8品目は、カニ缶を使った遊び心あふれるパンつまみです。
飲食店経営のほか、食品メーカーのメニュー開発を多数請け負っている佐藤さんだが、ある日こんな相談を持ち掛けられた。
「某食品輸入商社から大量のカニのほぐし身が届いたんです。北欧で採れたカニらしいのですが、身はぱさぱさだし、味も淡白すぎてお世辞にもおいしいといえるシロモノではない。これを料理に活用するにはどうすればいいか、という相談です」
カニは高たんぱく低脂肪の食材で、そもそもコクが足りない。ボイルしたほぐし身は少ない脂質がさらに抜け、旨味も逃げてしまっている可能性が高い。そこで佐藤さんはカニのほぐし身に塩少量とサラダ油をまぶしてしばらく放置しておいた。
塩の浸透圧の効果で、カニの身から水分と旨味が程よく引き出され、しっとり感と旨味の増量に成功。サラダ油をうっすらまとったほぐし身はコクが補われ、淡白でもの足りない印象も払拭できた。
この技は、市販の缶詰にも応用できる。
「高級なカニ缶でなくても、このひと手間で十分おいしくなります。ということで、今回は、比較的求めやすい紅ズワイガニの缶詰で、カニクリームコロッケをつくります!」
おおお~!ずいぶん手の込んだ料理をつくるんですね、佐藤さん!!
「ウソです(笑)」
えええ~!ウソなんですか、佐藤さん!!
「カニクリームコロッケの味がするつまみをつくります」
カニコロの味?
「カニクリームコロッケって手間のかかる料理でしょう?カニや玉ねぎなど食材を炒めて、ベシャメルソースをつくって、タネを仕込んで冷蔵庫でねかせて。そのあと、俵形に成形してパン粉をまぶして、いよいよ揚げる段階で中身がパンと破裂しちゃったりして。失敗のリスクも高いよね」
おっしゃる通りです!!
「家でつくるつまみは、手間をかけずに失敗なくつくれるほうがいいじゃないっすか。でも、食べればちゃんとカニコロの味がするんですから、つくりたくなるでしょう?(笑)」
はい、今すぐつくってみたいです!!

「長崎の郷土料理のハトシって知ってますか。海老のすり身を食パンに挟んで揚げたものなんですけど、これをカニ缶でやってみようと思ったんですよ。でも、揚げずに焼くほうが簡単だし、食べれば同じだし、それでいいかって(笑)」
さて、実食。塩と油でひと手間かけたカニがぜいたくな風味を演出。カリッと焼けたパン粉はコロッケの衣そのものだ。土台となる食パンがちょうどよいボリューム感で、呑んべえの腹を塩梅よく満たしてくれる。市販のホワイトソースと中濃ソースのジャンクで人懐っこい味は、飲めない人や子どもにも大受けしそうだ。
一口でいけるフィンガーフードサイズも、酒飲みには有難い。
「この切り方は、以前dancyu秋号のコンビニチーズ企画でご一緒した『銀座ロックフィッシュ』の間口一就さんインスパイア。食パンを酒のつまみにするには、切り分けるサイズが大事と教えてもらいました。そんなわけで合わせる酒も、間口さんオマージュで、ハイボールにしてください!」
いやあ、佐藤さん、さすがです!

| 紅ズワイガニ水煮缶 | 30g |
|---|---|
| 塩 | 少々 |
| サラダ油 | 3g |
| 食パン | 1枚 |
| マーガリン | 適量 |
| ホワイトソース | 70g(市販) |
| 生パン粉 | 20g |
| ナツメグ | 少々(好みで) |
| こしょう | 少々(好みで) |
| 中濃ソース | 適量 |
カニ水煮はほぐし、塩、サラダ油をまぶして1時間ほどおく。
食パンにマーガリンを薄く塗り、こんがりと焼き色がつくまでオーブントースターで焼く。
小鍋に1のカニ、ホワイトソース、生パン粉、好みでナツメグとこしょうを加え、弱火にかけ、もったりするまで混ぜながら煮る。

2の食パンに3をのせて平らに広げ、生パン粉適量(分量外)を全体に薄くふる。焼き色がつくまでオーブントースターで3分ほど焼く。


4を6等分に切り、皿に盛って中濃ソースをかける。


1974年埼玉県生まれ。国内外のレストランを経て独立。ポルトガル料理店「クリスチアノ」をはじめ、「お惣菜と煎餅もんじゃさとう」「ポークビンダルー食べる副大統領」など5店舗の飲食店や、缶詰やレトルト食品などを販売するECサイト「さとう商店」を運営。趣味は家族でキャンプすること。晩酌酒はジムビームのハイボール、または黒霧島ロックの二択!
文:佐々木香織 撮影:伊藤菜々子