刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
【干物は揚げても旨い!】ワインが進む「カマス干物の揚げマリネ」をつくろう

【干物は揚げても旨い!】ワインが進む「カマス干物の揚げマリネ」をつくろう

伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり。今回は内田さんがつくったカマスの干物を使った素揚げマリネのつくり方を紹介します。教えてくれたのは、本連載を担当するカメラマンの牧田健太郎さん。釣り師でもある牧田さんは、魚料理の腕前もプロはだし。干物は、料理の素材としてのポテンシャルも高かった!

干物を揚げてしまおう!干物は水分が少ないので油はねも少ない

魚の旨味が凝縮した干物。焼くだけで酒肴にもご飯のお供にもなるし、塩やみりんなどの味もしみているので、実は素材と調味料を兼ねた存在として料理の材料にもなる。教えてくれるのは、本連載のカメラマンである牧田健太郎さん。元バーテンダーなので酒肴には詳しく、仲間と一緒に釣り船を保有してクエを狙うほどの釣り師でもある。魚食に関する知識と創意工夫は我らが干物師匠である「島源商店」の内田清隆さんが一目置くほど。前々回の記事で紹介したカマスの干物を使ったレシピを考案してくれた。
「カマスは旨味が強い白身魚なので、シンプルに素揚げにしてマリネで食べてみましょう。材料は、玉ねぎ、ピーマン、レモン、オリーブオイル、白ワインビネガー、水です。干物の塩味があるので塩は不要です」
明らかに料理慣れしている牧田さん。ただ、牧田さんが料理すると撮影する人がいなくなるので、牧田さんの指示のもと、筆者が手だけ動かすことにした。
「干物はハサミで切り分けやすいし、水分が適度に抜けているので油はねが少ないのもいいですね!」
干物の可能性追求に貪欲な内田さんは興味深そうにアシスタント役に回ってくれる。この強力コンビ、干物専門の料理店を開けそうな勢いだ。

干物は旨味がとじ込められているので、他の食材と合わせても存在感を放つ

1マリネ液をつくる

白ワインビネガーと水を各30ml、オリーブオイル15ml、レモン汁半個分、レモンの皮適量、たまねぎのすりおろし4分の1個分を混ぜ、ピーマンの細切り1個分を加えてなじませる。

マリネ液をつくる

2カマスを切る

カマスの干物はキッチンバサミで一口大に切り分け、油とともに鍋に入れる。

カマスを切る

3カマスを揚げる

2を火にかける。火加減は中弱火。160度ぐらいの低温をキープし10分ほどじっくり火を通せばOK。

カマスを揚げる

4マリネ液にカマスを浸ける

油から引き揚げたカマスはそのまま1のマリネ液に投入。混ぜれば完成! 

マリネ液にカマスを浸ける

「たまねぎやピーマン以外にもお好みの野菜を入れてもらってOKです。干物は旨味がとじ込められているので、野菜や調味料に負けません」

カマス干物の揚げマリネ

牧田さんの言う通り、このマリネを噛み締めるとカマスの身や骨からジュワ~と強烈な味が浸み出てきた。野菜の青々しさやビネガー&レモンの酸味とぶつかり合い、うまくまとまっている。塩味は少なめなので、魚の味がよくわかるぞ。牧田さん、さすが!

旨味も酸味も強いカマスのマリネは、ボディのある赤ワインで

干物料理と酒を合わせて、仕事中に飲んじゃうのがこの連載である。地元の本カマスを使ったマリネにはふさわしいワインを合わせたい。静岡県伊東市の島源商店と同じく相模湾に臨む神奈川県鎌倉市の自然ワイン専門店「鈴木屋酒店」へ。

カマスの干物に合わせたいと相談すると、店員さんが目を閉じて口をモゴモゴ。カマス料理を想像で味わいながら店内にあるワインと脳内検索しているのだ。そして選んでくれたのが「イル・マイオーロ」というイタリアの赤ワイン。つまみなしでグイグイ飲めちゃうほどの品質で、果実味も酸味も強めだけと大丈夫かな……。カマスの干物素揚げマリネと恐る恐る合わせてみたところ、意外なほどマッチした。

カマスのマリネ

「魚よりもサラミとかチョリソーを食べたくなるようなワインだけど、レモンの爽やかな酸味がかけはしとなってカマスと融合していますね」
牧田さんも満足げだ。さきほどから何やら考え事をしながら飲み食いしている担当編集の藤岡さん、いかがですか?
「パンチのあるマリネにこのワインは負けていませんね。例えるなら、個性強めの外資系勤務カップル!」
上手な例えを考えていたんですね……。野菜やビネガーに負けないカマスの干物。そのマリネに負けないワイン。元気な人がより元気になれるような組み合わせだと思った。

大宮冬洋の干物日記
【大宮冬洋の干物日記】干物で冷や汁をつくってみた。鯛より断然アジの勝ち!
○月△日

僕も干物を使った一工夫のある料理をつくって披露したい。牧田さんのように新たなレシピを開発する自信がないので、本棚から参考書を引っ張り出してきた。うすいはなこさんの『干物料理帖』(日東書院)である。暑い季節に良さそうなレシピはないかな……。おっ、「アジの冷や汁」がある!食べ切れなかった塩焼きでつくる料理だと思っていたけれど、干物でつくったらより美味しく仕上がるようだ。「食欲のわく、夏の料理」とのこと。熱いご飯に冷や汁をかけて食べたい!
僕の失敗はこの日につくった小鯛の干物を使ってしまったこと。アジより鯛のほうが高級なのだから大丈夫だろうと安易に思ったのが間違いだった。以前にどこかで食べたことがあるアジの冷や汁に比べて、なんだか味が足りないぞ!
「鯛はちょっと上品すぎるね。アジのほうがインパクトがあるかも」
妻が言葉を選んで批評。確かにその通りです……。干物はそのまま焼くとどれも美味しいけれど、素材として料理に使うときは魚種を選ぶ必要がある。適材適所という言葉の意味を痛感した夕食だった。

教える人

牧田健太郎(釣り師カメラマン)

1968年、東京・南麻布生まれ。バーテンダーやシャンプーボーイなどを経て、カメラマンの浦川一憲(IKKEN)氏に師事した後、独立。仲間と釣り船を保有し、暇を見つけては釣りに出かける。釣果は都内の和食店などに卸すことも。料理することも大好きな食いしん坊。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。