刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
干物にするサンマは「脂少なめ」でもOK!旨味と凝縮したサンマ感がたまらない逸品に

干物にするサンマは「脂少なめ」でもOK!旨味と凝縮したサンマ感がたまらない逸品に

伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり。今年はサンマが豊漁!スーパーの鮮魚コーナーでも大型のものが安く手に入る。伊豆では春に獲れるサンマの幼魚の丸干しを「針子(はりこ)」と呼んで風物詩にもなっているが、今回は大きなサンマを背開きに。頭を残して見栄えのする干物をつくるのだ。味は極上です!

脂が少ないサンマこそ干物向き。酸化しにくく、身の旨味がぐっと凝縮

「不漁が続いていたサンマ。今年は5年ぶりぐらいの豊漁で、型も大きいので開きやすいですね。これからの季節は脂が落ちていきますが、脂が少ないサンマも天日干しにすることで味が凝縮するので、サンマ本来の味を存分に楽しめると思います!」

ちょっと興奮気味の内田さん。「秋刀魚」はその名の通り秋を代表する魚だが、脂がのりはじめてくるのは夏の終わりから秋にかけて北海道で獲れるもの。秋にかけて南下し、三陸沖などで漁獲量が増える頃に東京などの大消費地で安く出回る。11月以降はさらに南下。脂は落ちているがしっかりとした旨味を味わえるサンマが手に入る。伊東では小型のものは丸干しにしているという。

島源商店スタッフの鈴木さん
島源商店スタッフの鈴木さんが指導係。いっこうに上達せずに逆ギレ気味の僕を辛抱強く教えてくれます。

見栄えよく食べやすい。頭を残した「小田原開き」で仕上げよう

「針子という丸干しも伊豆半島の風物詩ですが、あれは春に獲れるサンマの幼魚を使った干物です」
伊豆の魚と干物を知り尽くしている内田さん。今回は晩秋の干物ということで30cm以上ある立派なサンマを冷凍しておいてくれた。頭を残して季節感をアピールしつつ、食べやすく開いて干す。いわゆる小田原開きだ。細長いサンマだけど、厚みがあるので僕でも楽に開けそう。早速、教えてもらおう。

1切り目を入れる

魚を縦に置く。指と包丁の先端でえらぶたを広げ、その付け根から尾まで背に切り目を入れる。

切り目を入れる
切り目を入れる

2身を開く

手で広げながら背骨の向こう側まで包丁を入れる。このときに包丁の角度をつけて腹骨も断ち切ると良い。手と包丁で身を押し開く。

身を開く
身を開く

3内臓を取り外す

魚を横に置く。えらぶたに指を入れて、手と包丁でえらごと内臓をかき出す。

さばいたサンマ

鈴木さんと同じようにやっているつもりなのだが、なぜか包丁がスムーズに動かない。内田さんから「大宮さんは包丁を大きく使い過ぎです。我々は包丁の先端しか使いません」と言われて、カマスの小田原開き(記事はこちら)でまったく同じ指導を受けたことを思い出した。予習復習を怠ってはいけないな……。

サンマ
さばいたサンマは水の中で歯ブラシを使ってよく洗う。

同じ大きさのサンマでも、脂のりや鮮度によって塩の入り方が異なる。経験値とセンスが求められるところだ。今回は脂少なめの冷凍サンマを解凍したので「塩分濃度8%の塩水で12分間」と内田さんと鈴木さんが判断した。
干す前に、サンマの表面をなでつけると照りの良い仕上がりになる。プロのひと手間だ。

サンマ

風速10mはむしろ好都合。強風×好天で、大型サンマがわずか1時間で完璧な干物に!

この日は風速10mほどで、気温は20℃超。カラッとした天気だ。島源商店の屋上は干物が飛ばされそうな強風だった。目の前の海には白波が立っていて、釣り好きカメラマンの牧田さんは「これじゃ釣り船は出せない」と浮かない顔をしている。内田さんはにこやかだ。
「風が強いのは、干物づくりには悪くない条件ですからね。風で飛ばされないように、(干物を置く台の)角度は付けずに干しましょう。昼休憩にしますから1時間ほどで帰って来てください」
牧田さんと一緒にラーメンを食べに行き、戻ってきたら本当に干し上がっていた。表面を指でツンツンしてもまったくベトつかない。それでいて弾力はあり、身の内側には水分が残っている。完璧な干し上がりである。干物づくりにおける風の重要性を体感した。

サンマ

衝撃の「サンマ感」が口内で爆発。塩焼きの比じゃない激ウマ干物、ぜひサンマ好きに薦めたい!

サンマの脂を落とさないように身側から焼いて表面をコーティングし、ひっくり返して皮側をじっくり焼く。皮は焦げるぐらいがちょうどいい。最後に再び身側を焼き上げて完成だ。
僕は脂がたっぷりのったサンマの塩焼きが好きだ。苦い内臓がアクセントになる。しかし、このサンマの干物は脂少なめで内臓は抜いてある。どんな味がするのだろう。
身をほぐして口に入れると衝撃が走った。サンマの旨味が干したことによって凝縮され、口の中で爆発。このサンマ感、塩焼きの比ではないぞ。サンマ好きにはぜひとも味わってほしい。
「白いご飯がたくさん食べられますね~。スダチを絞った大根おろしと一緒に食べると、スッキリ系の日本酒や白ワインと合いそうです」
元バーテンダーでもある牧田さんが酒を飲みたそうな顔をしている。内田さんはいかがですか?
「やっぱりサンマは旨いですね。脂がなくても十分に商品価値があることがわかりました!」
むしろ脂が少ないサンマを使ったことが正解だったと思う。サンマが最も安くなるこの時期、ぜひ干物をつくってみてほしい。

サンマ干物
大宮冬洋の干物日記
【大宮冬洋の干物日記】さばく手間なしの「丸干し」で、捨てられがちな未利用魚に光が見えた!
○月△日

前回、釣師カメラマンの牧田さんにいろんな小魚を丸干しすることを教えてもらった(記事はこちら)。さばく手間がかからないのに、「その子らしさ」を味わえるのが嬉しい。
僕が住んでいる三河湾沿いでは観光底引き網漁がある。鉄製の枠が付いた大きな網を海に落としてしばらく引きずると、本命であるワタリガニや車海老、貝類が網の中に入る。同時に、海底に棲む小魚もたくさん獲れる。それらは海に戻すことが多いけれど、海の中で引きずられて弱ってしまっている。戻すというより捨てるに近い。いわゆる未利用魚だ。
もったいないので僕はできるだけ自宅に持って帰るようにしているが、小さすぎてさばくのは難しいし、歩留まりも悪すぎる。
そんな魚は、牧田さんのようにまとめて塩水に浸して干せばいいのだ。さっそく底引き網漁から持ち帰って来たホウボウやスズキ、マダイなどの稚魚で試してみた。ただ、残念ながら牧田さんほどは美味しくつくれなかった。鮮度が良すぎたので塩が十分に入らず、焼き方も足りなかったようだ。でも失敗の原因がわかったから、次はきっと大丈夫!小さな未利用魚たちに光明が見えた気がする。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。