香りと辛味が印象的な、青唐辛子やコリアンダーベースの緑のソース、「モホ・ベルデ」が味の決め手!塩漬けにした豚のスペアリブの旨味がたまりません。スペインの豚肉料理を料理研究家の丸山久美さんに教えてもらいました。
生ハム、丸焼き、フライ……。スペインは豚肉料理の宝庫だ。そのバリエーションはヨーロッパで一、二を争う、といっても過言ではないだろう。
スペインで豚肉料理がこれほどまでに花開いたのはなぜなのか。豚肉を愛してやまないスペイン料理研究家の丸山久美さんに訊ねると、意外な言葉が返ってきた。「実はね、“踏み絵”の要素があったんですよ」
イベリア半島の南端からジブラルタル海峡を挟んで、すぐそこは北アフリカだ。その昔、北アフリカから侵攻したイスラム王朝は、キリスト教の王を破竹の勢いで追いやり、イベリア半島をほぼ制圧した(観光地としても有名なグラナダのアルハンブラ宮殿やコルドバのメスキータは、その当時のイスラム文化の名残だ)。
その後、国土回復運動によってキリスト教徒が国土を奪還すると、国土に残っていた多くのイスラム教徒やユダヤ教徒は、なんと、宗教上忌み嫌うべき豚を積極的に食べることで“改宗”した証しを示したという。
こうした歴史がスペインの豚肉文化を豊かにした一面だ、というのは皮肉な気もするけれど、現代に生きる私たちにとっては、ありがたい食文化が残されたというわけだ。なかでも“煮込み料理”は、スペイン中の家庭で、さまざまに親しまれている。つくり方はどれも簡単。食べごたえ満点で、日本人の舌にもなじみやすい。シンプルでほっこりした味わいを堪能しよう。
塩漬けした豚スペアリブの旨味が、とうもろこしやじゃがいもの甘さを引き立てる、素朴でおおらかなご馳走は、スペイン領カナリア諸島の定番料理。鮮度のよいとうもろこしが出回る“夏こそ食べたくなる煮込み”だ。じっくり煮込んだスペアリブは身離れもよく、しっとり、ホロホロで幸せな気分になる。とうもろこしもじゃがいもも、大胆にゴロッと入れるべし。
新鮮なとうもろこしは、芯からいいだしが出る。今回は使わなかったが、状態がよければ、ひげも一緒に煮込むと、いっそう旨味が増す。その際、ひげをだしこし袋などに入れて使えば、後で取り出しやすい。
出来上がったら器に盛り、モホ・ベルデと呼ばれるソースをかけていただくのが、カナリア風。このソースがまた絶品だ。爽やかで軽快で、こんなにボリューミーな料理なのに、いくらでも食べられる。
★ モホ・ベルデ | |
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・ コリアンダー | 10g |
・ イタリアンパセリ | 20g |
・ 青唐辛子 | 1本 |
・ にんにく | 1片 |
・ クミン | 小さじ1/2(シード) |
・ オリーブオイル | 150ml |
・ 白ワインビネガー | 小さじ1 |
・ 塩 | 適宜 |
豚スペアリブ | 大きめ4本 |
粗塩 | 小さじ2 |
じゃがいも | 中2個(または小4個) |
とうもろこし | 2〜4本 |
豚スペアリブは塩をまぶし、1日以上おく。
モホ・ベルデの材料をすべてブレンダーまたはミキサーで撹拌し、ソースをつくる。
じゃがいもは皮をむき、大きければ半分に切る。とうもろこしは皮とひげを取り、半分に切る。
鍋に①、とうもろこしとたっぷりの水を入れ、沸騰したらアクを取り除き、弱火で30分ほど煮込む。
じゃがいもを加えてやわらかくなるまで煮る。
器に移し、モホ・ベルデをかける。
スペイン家庭料理教室「mi mesa」主宰。スペインのマドリードに14年間滞在、その間、現地の料理教室に通いながら、家庭料理を学ぶ。帰国後、スペイン家庭料理を中心にレシピを紹介。著書に『家庭で作れるスペイン料理』(河出書房新社)、『修道院のお菓子 スペイン修道女のレシピ』(扶桑社)など。
※この記事の内容は、『技あり!dancyu豚肉料理』に掲載したものです。
文:風来 青 撮影:尾嶝太