こっそりお届けしたい、辻さんの研究結果をお届けします。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。パリに住んで20年の辻さんによる、美味しさと思い出の詰まった“パリ・サラダ”のレシピです。
息子が大学に合格したので、ぼくはこの秋から一人暮らしをはじめることになった。62歳になって、こういう人生が待っているとは思いもしなかった。今、ぼくはパリを離れ、英国海峡が見える海沿いの家で、子犬の三四郎と暮らしている。
何キロも続く穏やかな浜辺の突き当たりに小さな漁港があって、そこにゲリラ・マルシェが夕刻になると出没する。漁師たちが港に乗り付け、釣った魚を売るのだ。売り切らないと腐るだけなので、驚くほどに安い値札が踊っている。その辺の海でとれた蟹は、身も味噌もしっかりあってうまい。それが一匹、260円くらいで買えてしまう(同じ蟹が楽天で3,500円であった)。しかし、イカなんてもっと安い。近海でとれたイカが袋いっぱいで100円みたいな値段なのだ。買わない手はない。
しかも、英国海峡でとれるイカがこれまた実に美味しい。ぼくはイカが手に入る時は必ず「イカとチョリソのサラダ」を作る。やはり浜辺の中ほどにあるテラスカフェの定番で、初めて食べた時には頬っぺたが落ちそうになった。この異常な組み合わせ、なかなか思い付かない。もしかすると、フランスとスペインにまたがるバスク地方あたりで生まれた食べ方かもしれないのだが、詳しいことはわからない。笑。ピーモンドエスプレットという優しい唐辛子の粉を利用する。ほんのりピリ辛のサラダだ。
今回のレシピは、その浜辺のグリル焼きレストランの定番料理を何度か食べ、自分なりに、研究した調理法(笑)、いや、真似ただけのものだが、をこっそりお届けしたい。英国海峡を思い浮かべながら、チャレンジして頂きたい。
これは、チョリソがすべての味の決め手となる。注文をした時には勇気がいったが、みんなが食べているので、頼んでみたら、これが実にうまかった。想像を絶する組み合わせなのである。海でとれたイカと、山で生まれたチョリソが、山海珍味のハーモニーを奏でる斬新なサラダ。とくに、下に敷く葉っぱにこだわりはないが、ちょっと食感の柔らかい、サラダ菜のようなものがいいだろう。
それでは、今日も一緒につくってみましょう。
イカ | 150g |
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チョリソ | 8枚(薄切り) |
★ ピーマンのマリネ | |
・ ピーマン | 2個 |
・ ワインビネガー | 大さじ1(またはバルサミコ酢) |
・ オリーブオイル | 適量 |
・ 塩 | 適量 |
・ 胡椒 | 適量 |
トマト | 1/2個 |
サラダ菜 | 適量 |
松の実 | 少々 |
エスプレッド唐辛子 | 適量(あれば) |
イタリアンパセリ | 適量(刻む) |
好みのドレッシング | 適量 |
オリーブオイル | 適量 |
ピーマンは縦半分に切り種とヘタを除き、油を引かずにフライパン、もしくは、グリルパンで焼き、ワインビネガーかバルサミコ酢とオリーブオイル(ピーマンがひたひたにつかるくらい)、塩、胡椒でマリネし、冷蔵庫で一晩ねかせておく。
フライパンで、できるだけ薄く切った(本当に薄くカットしてください)チョリソを軽く焼き、お皿に出しておく。
チョリソを焼いたフライパンにオリーブオイルを少し足し、イカを焼く。綺麗な焼き色がついたら塩、胡椒で味を調え、チョリソと一緒にお皿に出しておく。
深皿にサラダ菜を敷き、小さく切ったピーマンのマリネ、イカ、チョリソ、トマトなどをのせ、最後にフライパンで炒った松の実とエスプレッド唐辛子、パセリを散らして完成となる。
好きなドレッシングをかけて、はい、ボナペティ。
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac