ポワローねぎを豪快に使った、とろりと温かいサラダです。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。パリに住んで20年の辻さんによる、美味しさと思い出の詰まった“パリ・サラダ”のレシピです。
最近、日本でも高級食材スーパーなどでたまに見かけるようになったポワロー葱、ご存じであろうか?形状は日本の下仁田葱ととてもよく似ているが、わずかに甘味があり、癖がなく、苦みが少ないのが特徴で、あらゆるフランス料理に登場する。
ぼくがはじめてパリで暮らしだした23年ほど前、サンジェルマン・デ・プレにある老舗ビストロ「リップ」の前菜メニューに、ポワロー・ヴィネグレットがあった。
人気ですよ、と給仕さんにすすめられるがまま、注文をしてみると、まもなくして、出てきた葱の山に、言葉を失った。
しかも、口にいれてみると、筋っぽく、酸っぱくて、正直、心の準備ができておらず、食べきれなかった。慣れてないのと、ちょっと、そこのは酢が強かったのだ(これは今日ご紹介するグリルしたものではなく、ゆでた方のポワロー・ヴィネグレット。それはちょっとまた癖があるので、フランスで注文するときに、用心が必要!)。
数年後、知り合ったフレンチの料理人に、本当のおいしさを教えてもらうことになる。
彼は、このポワロー葱をオーブンでじっくり焼いて、というか、真っ黒になるまで焼いて、ぼくの目の前に出したのだ。その料理人は、器用にナイフとフォークを使って、周囲の黒焦げになった表皮を取り除いてみせた。するとその中から、とろっとした葱の中身が出てきたのである。とろけたポワロー……。湯気がのぼっていた。
それを別の皿に移し、ヴィネグレットをかけ、
「食べてごらんよ」
と彼は言った。
フォークとナイフでカットし、口にいれて、さらに、びっくり仰天、
「うわ、美味い! なんじゃこれ」
となった。
白ワインとの相性が抜群で、いくらでも食べられる。野菜なのだけれど、グリルしてあることで、食感に個性がある。
日本の葱ほどの苦味がないので、食べやすく、甘みも感じる。そうだ、噛めば噛むほど、甘味を覚える。そして、ヴィネグレットの酸味がその甘さを包み込んで複雑なうまみを連れてくるのである。
葱本来のうまみ、甘味、おいしさをオーブンの熱で封じ込めた、最高傑作。フレンチビストロでは王道のような伝統的料理を、今日は、ちょっとアレンジして、皆さんにご紹介しましょう。
ポワローねぎ | 2本 |
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からすみ | 少々(スライス) |
★ ヴィネグレットドレッシング | |
・ エシャロット | 1個(刻む) |
・ ディジョンマスタード | 大さじ1/2 |
・ シードルヴィネガー | 大さじ1 |
・ オリーブオイル | 大さじ3 |
・ 塩 | 少々 |
・ 粗挽き黒胡椒 | 少々 |
パセリ | (あれば) |
オーブンを220℃に予熱する。
青い部分を切り落としたポワローを半分に切って、クッキングシートを敷いたオーブン皿に並べ、オリーブオイル少々(材料外)、塩、胡椒をふって焼く。
10分くらいしたらポワローを裏返し、さらに20~30分くらい焼き、周りがよく焦げたら取り出す。
ヴィネグレットのすべての材料をあわせ、よく混ぜておく。
ポワローの真ん中にナイフを入れて開き、④のヴィネグレットドレッシングを、エシャロットを挟み込むようにしてかけ、パセリを散らし、からすみのスライスを飾って完成。
ビストロの前菜の定番。ポワロー葱はゆでたり蒸したりするのが一般的ですが、オーブンで焼くことで、味がぎゅっと閉じ込められ中とろとろのポワローとヴィネグレットの相性がばっちり。白ワインとの相性抜群、ボナペティ!!!
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac