イタリアン・ウェディングスープとは、イタリアの結婚式で出てくる鶏団子のスープのこと……ではないようで?作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんによる、やさしいご馳走“パリ・スープ”のレシピです。
英語でイタリアン・ウェディングスープと名付けられたこのスープ、イタリアの結婚式に必ず出てくるスープとして、世界中にその名を知られております。ネットで見ても、時に料理雑誌などにも、「イタリアの結婚式で出されるスープ」と出てきます。ところがところが……。
実は全くのデタラメでして、イタリアの結婚式に鶏団子スープは出てきません。息子の大親友アレクサンドル君のお父さん、ミラノ人のロベルトに確認したから、間違いありません。
じゃあ、このスープ本当は何という名前なのでしょう。調べましたら、イタリアでこのスープをミネストラ・マリタータ(minestra maritata)と呼びます。
マリタータとは、既婚者という意味らしいですね。フランスでも組み合わせることをマリアージュ(結婚)させると表現します。このスープの場合、緑黄色野菜と肉が良くマリアージュしたスープという意味なのだそうで、ええええ、そうなんだ、つまり誤訳??はい、どこかの有名料理雑誌にかつて誤訳され、そのまま世界中に、イタリアにおける結婚式のスープとして伝わったというのが真実……。
しかし、この間違い、なんとも面白い。結婚式でイタリア人がこの鶏団子スープを家族一同ですすっている姿は、実に微笑みを誘われます。なにより、イタリアン・ウェディングスープというネーミングが可愛らしいですね。
さて、実際のこのスープ、イタリアで食べた(すすった)ことがありますけど、あまりにシンプルで、おとなしい、上品なスープなのです。もう、なんにも癖がなくて、鶏のダシだけで出来た、あまりに健康的なスープ。日本のお雑煮みたいな、まさに、あれなんですよ。最初、一口目は物足りなさが舌先に不満を募らせるのですが、二口、三口とスプーンで掬って頂いているうちに、あれ、すごい、マジ?癖になるというのか、その素晴らしさが分かってくるわけです。
ぼくがやってきたスープ連載の中で、一番、胸を張って皆さまにお伝えしたかった、まさに、食べるスープの真骨頂でありながら、しつこくなくて、何杯でもいつでも頂きたくなる家庭料理の定番中の定番というわけです。だから、レシピといえるような作り方ではないのですけど、丁寧にダシをとり作っていただければ、と思います。さっそく、一緒に作ってみましょうね。
★ 鶏団子 | |
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・ 鶏挽き肉 | 400g(ささみ、もしくは胸肉) |
・ 食パン | 1枚(8枚切りを粉砕、またはパン粉大さじ2) |
・ にんにく | 1片(みじん切り) |
・ 乾燥オニオン | 小さじ2(粉) |
・ 黒胡椒 | 小さじ1(ひきたて) |
・ イタリアンパセリ | 大さじ6(みじん切り) |
・ 卵 | 1個 |
・ パルメザンチーズ | 大さじ3(すりおろす) |
鶏ブロード(★) | 1.5L(または固形ブイヨンでも可) |
ほうれん草 | お好み量(できればベビーほうれん草、またはケールなど緑の野菜) |
ショートパスタ | 1/2カップ(小さめ) |
★ 鶏ブロード | |
・ 水 | 2L弱 |
・ 鶏の骨や手羽先など | (フランスの鶏もも肉は骨つきで売られているので、骨を取ったら必 ずブロードの材料にします) |
・ 玉ねぎ | 1個(大) |
・ にんじん | 1本 |
・ セロリ | 1本 |
・ ローリエ | 1枚 |
・ 塩 | 小さじ1 |
・ 黒胡椒 | 小さじ1(粒) |
ボールに挽き肉を入れ、鶏団子の材料をすべて入れ、よく練ります。
ショートパスタはアルデンテにゆでてザルに上げておいてください。
ブロードの材料をすべて鍋に入れ、アクをしっかり取りながら1時間ほど煮込んでおきます。好みの塩加減にしたら綺麗に濾す。
3のブロードを沸かし、鶏団子を丸めながら入れていき、しっかり火が通るまで15分ほど煮てください。アクはほとんど出ませんが、もし出たら、取ってね。
鶏団子に火が入ったら、ほうれん草、②のパスタを加え、好みの状態に火を入れたら完成となります。器に盛って、たっぷりのパルメザンチーズ(分量外)をおろして召し上がれ。ボナペティ!!!
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac