今回のスープはコク深い “あさりのショードレー”です!作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんによる、やさしいご馳走“パリ・スープ”のレシピです。
ぼくは30代の後半に一年間、新聞社の特派員資格を取得し、ニューヨークに住んでいたことがあります。この時、毎週のように食べていた(食べるスープに目覚めたのはここから?)のがクラムチャウダー。特にボストンを訪れた時に食べた、いわゆるボストンクラムチャウダー(牛乳ベースのニューイングランド風)はさすが本場と唸らずにはいられない、美味さでした。
しかし、このクラムチャウダーの誕生には諸説あります。現在、もっとも信じられているのは「ボストンに漂着したフランス人漁師によって伝えられた」というもの。そこで調べましたところ、西フランス(フルール・ド・セルの産地、レ島あたりの漁師じゃないか、と勝手に推測!)に昔から伝わる大鍋スープ料理が存在します。
ショードレーというのは、大鍋を意味するショーディエールという言葉から生まれています。クラムチャウダーも大鍋で作っていましたからね。ショードレーとチャウダーって響が似てませんか? で、フランスではクラムチャウダーのことを、“Chaudrée de palourdes”ショードレー・ド・パルードゥ(あさりのスープ)と呼んでいるのです。この辺の語源説には調べるといろいろあるんですが、ぼくは、チャウダーはショードレーから来た説を信じております。笑。
前にここで紹介させて頂きましたビシソワーズも、アメリカ発案じゃなく、アメリカに渡ったフランス人シェフの考案だった、というのですから、私、日本人ですけど、フランス在住者としては鼻高々であります。
で、ボストンでもそうでしたが、ここフランスでも、庶民は丸いカンパーニュ・パンをくりぬいて中にこのスープを注ぎ、スプーンでパンごと掬い取りながら食べるわけですから、豪快だし、まさに働く漁師の食べ物らしく、腹いっぱいになるのでした。トマトベースのマンハッタン風クラムチャウダーではなく、今回はシンプルイズベスト、もっともポピュラーなニューイングランドスタイルの小麦粉と牛乳のクラムチャウダーをご紹介したいと思います。
あさり | 500g(殻付き) |
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ジャガイモ | 2個 |
玉ねぎ | 1/2個 |
セロリ | 1本 |
ベーコン | 50g |
にんにく | 2片 |
小麦粉 | 大さじ3 |
牛乳 | 100ml |
水 | 400ml |
白ワイン | 100ml |
生クリーム | 大さじ2 |
オリーブオイル | 大さじ2 |
タイム | 3本 |
ローリエ | 1枚 |
バター | 20g |
塩 | 適量 |
胡椒 | 適量 |
砂抜きをしたあさりの殻と殻を合わせ、まず、ゴシゴシよく洗いましょう。じゃがいもは小さめのサイコロ状に、玉ねぎ、セロリ、にんにくはみじん切りにしておいてください。ベーコンは5mm幅に切る。
鍋にあさりと水、白ワインを入れ、沸騰させ、貝が開いたらあさりを取り出します。あさりが十分しょっぱいので、塩は必要ありません。
ココットにオリーブオイル、にんにく、玉ねぎ、セロリ、じゃがいも、ベーコン、タイムとローリエを加え、中火でよく炒めます。野菜が透明になりしんなりしたら、小麦粉大さじ2を加え、万遍に絡ませ、あさりのゆで汁を加えます。野菜が柔らかくなったところで牛乳を加え、あさりの身(飾り用に殻付きのものを少しだけ残す)を加えます。
小さいボールに小麦粉大さじ1とバターを入れ、スープを少し足して練り合わせる。それを少しずつスープに戻し、スープにコクととろみをつけていきます。仕上げに生クリームを加え、少し温めて塩、胡椒で味を調えます。
最後にカンパーニュパンを切りぬき、そこにたっぷりとスープを注げば、完成となります。あさりから出ただしの妙をお愉しみくださいませ。ボナペティ!
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac