春の足音がすぐそこまで聞こえてくる3月。女の子の健やかな成長を願うひな祭りや、お彼岸など行事が盛り沢山な時季でもあります。ハレの日は、見た目も華やかなおやつで彩りたいもの。森崎繭香さんが失敗しないいちご大福のつくり方を披露します。
まずは、いちご大福にまつわる不思議な疑問をひとつ。
生地とあんこに包まれたいちごをかじると、炭酸水を口に含んだときのように口の中がシュワシュワしませんか?
いちごを炭酸飲料などにつけ込んでいるのでしょうか。
「炭酸飲料につけたような味に感じるのは、あながち間違いではありませんよ。実はあのシュワシュワの正体はいちごの呼吸なんです」と教えてくれるのは、お菓子・料理研究家の森崎繭香さん。
いちごの呼吸と聞けば、謎は一層深まるばかり。いったい、どういうことですか?
「いちごに限らずフルーツの多くは、エチレンガスという気体と水を出して熟していきます。普段は外に出しているガスと水分が大福の生地とあんこに閉じ込められているので、余計にシュワシュワと感じられるのかもしれませ
いちご自体がつくり出している、いわば天然の炭酸水ですね!
シュワシュワの正体がわかってひと安心。
今年のいちご大福は、いっそう愉しくいただけそうです。
「いちご大福は、コロリとした手の平サイズで常温で持ち歩くことができ、手土産にも使えるので春の行楽シーズンにはぴったりなおやつ。道具や材料が充実していなかった時代から、家庭で愛されてきたのでつくり方はシンプルです。今年の春は思い切って、つぶあんからつくってみませんか」
日本人ですもの。あんこを使ったおやつを手づくりできたら、胸を張れますね!
でも、いちご大福って粒あんが柔らかすぎて上手に包めなかったり、時間が経つと生地がかたくなってしまったりするイメージ。
安心してください、と森崎さんは続けます。
「粒あんのかたさがわかる目安と、翌日までかたくならない生地のつくり方を盛り込んだレシピを紹介します。大福のつくり方をマスターすれば、和のおやつづくりのレパートリーがグッと増えること間違いなしですよ」
小豆 | 200g |
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きび砂糖 | 150g |
塩 | ひとつまみ |
鍋に水洗いした小豆と半分ぐらいまでの水を入れて強火にかける。
沸騰して小豆が浮いてきたら水500mlを加える。ふたたび沸騰したら中火で15分ほど煮て、火を止め蓋をして40分ほどおく。
沸騰してから水を加えることで、小豆に含まれるタンニンやサボニンといった渋みの成分が抜けやすくなります。
小豆をザルにあげて煮汁をきり、水洗いする。
煮終えた小豆は、皮のシワがなくなってふっくらしています。小豆の渋みを水から煮出すことを”渋切り”と言います。煮汁は渋い味わいですが“小豆茶”として愉しむことができますよ。
小豆を鍋に戻し入れ、水800mlを加えて強火にかける。沸騰したら豆が少し踊る程度に火を弱め、蓋をして30~40分煮る。
渋切りをした小豆を柔らかく煮ていきます。ときどき蓋を開けて、アクが出ていたらすくいましょう。湯が少なくなって、豆の頭が湯から出そうになったら水を100mlほど加えてください。
鍋の大きさや火加減などで煮る時間は多少前後するので、小豆の柔らかさをチェックしましょう。芯まで煮えると、しゃもじや指で簡単につぶれるようになります。
湯の量を豆がひたひたになる程度に調節する。鍋を弱めの中火にかけながらきび砂糖を2、3回にわけて加え、焦げ付かないように混ぜながら好みの具合まで煮詰める。
きび砂糖を一度に加えてしまうと、ゆで汁の糖分濃度が一気に高くな
ポイントは小豆にきび砂糖を加えたあと、ぶくぶくとさせながら炊き上げるように煮詰めることです。とろ火でゆっくり煮詰めていると小豆の風味がうすれてしまいます。
いちご | 5個(小粒) |
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つぶあん | 80g |
白玉粉 | 60g |
上白糖 | 30g |
水 | 100ml |
片栗粉 | 適量 |
5等分にしたあんこで、ヘタを落としたいちごをひとつずつ包み、ラップをして冷蔵庫で冷やす。バットに片栗粉を広げておく。
先に粒あんだけを丸めておき、真ん中にいちごを押し込むようにするときれいに包めます。いちごの先端部分は出しておくと、仕上げたときに大福の頭がピンク色に見えて可愛いらしくなりますよ。
耐熱ボウルに白玉粉と上白糖を入れて、粉の塊がなくなるまで混ぜ合わせる。水を3〜4回ずつにわけて加えながら、ゴムベラで練り合わせる。
白玉粉と上白糖でつくる求肥(ぎゅうひ)という生地は、糖が水分を保持してくれるので翌日でもしっとりモチモチした食感の生地に仕上がります。
2にラップをして、600wの電子レンジで1分30秒加熱する(500wの場合は1分40秒)。ゴムべらを使ってボウルから生地をこそぎ、ボウルに押し付けたりしながら、餅をつくようにして手早く練る。再びラップをして、600wのレンジで1分加熱して(500wの場合は40秒)取り出し、ゴムべらで手早く練る。もう一度電子レンジで1分加熱して練る。
バットに片栗粉をふって生地を広げる。片栗粉をまぶした包丁などで5等分にする。
生地がくっつかないように片栗粉をまぶした指先で餅を広げましょう。生地は熱いので、やけどをしないように注意しましょう。
生地がくっつかないように、手に片栗粉をまぶす。余分な片栗粉を落とした生地を、あんこよりもふた回りほど大きく広げて包みこむ。
大まかなつくり方を覚えれば、アレンジも自由自在。あんこだけを包んだ大福に切り込みを入れて、いちごをサンドする通称“パッカンいちご大福”のほか、ホイップクリームを絞ってからいちごをのせたりと様々なバリエーションがあります。生地に水で溶いた食紅を少し加えると、ピンク色のいちご大福などもつくれますよ。
1976年、横浜生まれの八王子育ち。お菓子・料理研究家/フードコーディネーター。料理教室講師、パティシエを経て、フレンチ、イタリアンの厨房で経験を積み、独立。書籍、雑誌やWEBへのレシピ提供、ラジオ・テレビ出演など幅広く活動中。身近な材料を使った自宅でもつくりやすいレシピを心がけている。2019年には、人と犬が一緒に食べられる無添加おやつとごはんのオンラインショップ「one's daily」をオープン。著書に『型がなくても作れるデコレーションケーキ』(グラフィック社)、『小麦粉なしでつくる たっぷりクリームの魅惑のおやつ』(日東書院本社)、『米粉で作る うれしい和のおやつ』(立東舎)。最新刊は『はじめてでもおいしくできる! おうちおやつ』(文化出版局)。
文:長嶺李砂 写真:公文美和