酒飲みが舌で欲し、体でも欲する「しじみ」を使った肴を4回にわたって紹介します。1回目は、しじみを冷凍させることで、味も効用もアップさせる台湾料理の智慧を料理研究家の後藤ウィニーさんに教わります。
料理研究家の後藤ウィニーさんは台湾出身。自宅には日頃から大勢のお客が訪れる。年齢も職業もバラエティに富む来客に合わせて、その日の宴の献立を考えるのは、もちろんウィニーさん。市場まで出かけて買い求めた旬の食材をふんだんに使って、次々に繰り出す台湾料理は、おおらかで滋味にあふれ、宴に喜びと満足感をもたらしてくれる。
必ず登場するのが、台湾名物の“しじみの醤油漬け”。にんにくや生姜の風味を移した醤油に漬かった生のしじみのつるんとなめらかな食感、滋養エキスたっぷりの濃厚で深い味わい。いったいどうすれば、こんなふうに生のまま風味豊かにつくることができるのだろう。
「しじみを冷凍すればいいの」
ウィニーさんの答えはあっけないほど簡単だった。調べてみると、新鮮なしじみは冷凍保存が可能な上、冷凍することで肝機能をサポートしてくれるオルニチンも格段にアップ。栄養価も旨味も増すという。
「ただし、冷凍する前には必ず砂抜きをしてね。家庭の冷蔵庫なら4時間くらいで冷凍できるけれど、殺菌作用を考えて24時間以上はおいたほうがいい。あとは冷凍しじみの上から香味醤油を注いで、ひと晩、味をしみ込ませれば完成です」
ポイントは、香味醤油を冷ましてから注ぐこと。温かいと冷凍しじみが中途半端に温まってしまい、口を開かないのだ。夏場は常温で3~4時間、冬は丸1日かかることもあるが、あわてずに待てば、しじみは必ず口を開いてくれる。
しじみ | 500g |
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醤油 | 100ml |
紹興酒 | 60ml |
砂糖 | 25g |
干し梅(種なし) | 1個分 |
生姜(薄切り) | 15g |
にんにく(つぶす) | 3~4片 |
鷹の爪 | 1~2本 |
しじみをボウルに入れて、殻と殻を静かにこすり合わせるようにして、流水で洗う。 バットに洗ったしじみを平らになるように並べる。水1L(分量外)に対して、塩小さじ1(分量外)を加えて、1時間ほど砂抜きをする。 その後、さっと流水で洗って準備完了。 しじみをザルにあけて水気を拭き、ビニール袋に入れて24時間以上冷凍する。
鍋にしじみ以外の材料をすべて入れて中火にかけ、沸騰したら火を止めて冷ます。
蓋つきの容器に、冷凍しじみを入れ、上から2の香味醤油を注ぐ。しじみの口が開くまで、常温で3~4時間おき、開いたら冷蔵庫にひと晩入れて味をしみ込ませる。翌日から、食べることができる。
しじみで体をいたわる、台湾のおいしい智慧が詰まった一品は、思わず手が伸びる、台湾料理の定番。
殻を少し開いて、汁ごと身をすする幸せを、ぜひ。
明日は“スパイシー醤油のしじみ漬け”です!
1958年、台湾生まれ。日本人と結婚を機に、来日。日本の食材で台湾料理にチャレンジするうち、Winnie流の料理が評判となり、料理教室などで教えるようになる。著者に『Winnieの台湾キッチン』『Winnieの台湾キッチン。いつものおもてなし』(共に文化出版局)がある。
文:瀬川 慧 写真:公文美和