9月はまだまだ残暑の季節。なかなか食欲がでない時季にスープ作家の有賀薫さんがおすすめする「酸辣湯」(サンラータン)。ピリッと辛い胡椒と、コクのある味わいの黒酢を合わせて、すっぱ辛いスープをつくります。
酸辣湯(サンラータン/スーラータン)は、中国八大菜系のひとつ、湖南料理をルーツとするスープです。
湖南は毛沢東はじめ中国歴代の英雄を生み出した土地。中国西方の内陸部にあり、長江の中流に位置します。酸辣(ソワンラァ)と呼ばれる、酸っぱくて旨辛い味つけは湖南料理の特徴です。
同じ中国の西方には、私たちにも非常になじみのある四川料理があります。酸辣湯は四川料理として扱われることも多く、それ自体は間違いではありません。湖南と四川はエリアも近く、風土から味が似てくるのは必然でしょう。
辣湯絲(ラータンスウ)という、酸辣湯に似たスープのレシピが明の時代にあります。豚肉、きのこ、筍を細切りにして辛子をふりかけるスープです。そこに発酵の進んだ酸っぱい漬物を入れたのが酸辣湯のルーツではないかと思われます。漬物は旨味、酸味、塩味を同時につけられる便利な食材で、湖南地方では多用するのです。
ちなみに、多くの日本人に耳なじみがあるのはスープより、麺入りの酸辣湯麺ですよね。実は日本のオリジナル料理で、赤坂の中華料理店「榮林」でまかない料理として生まれたものです。
酸辣湯に胡椒を使う由来は、調べてもわからなかったのですが、意外と酸辣湯麺の流行から始まったのかもしれません。いずれにせよ、胡椒の痺れるような辛さがこのスープに合うと想います。
今回つくるレシピの胡椒はかなり多めに感じるでしょうが、これでも最低量。器に盛ってからさらに「追い胡椒」して食べても良いぐらいです。
胡椒と酢、どちらもしっかり効かせるのがおいしさのコツ。仕上げのときに加え、火を通しすぎないように酸味や辛味を立てます。酢と胡椒を器に入れておくレシピがあるほどです。
つくり方自体はそれほど複雑ではありません。毛湯(マオタン)と呼ばれる鶏のだしで好みの具材をさっと煮て味付けし、最後に卵でとじます。具も自由で、野菜やきのこ、肉や蟹、春雨などお好みで。
具材は下ごしらえをすべて済ませて、せん切りしてスープで軽く煮ます。元になるだしさえあれば調理時間は短く、毛湯は顆粒の鶏ガラスープなどでも代用できます。
湖南・四川の内陸エリアは中国の米どころでもあり、麺の文化ではなく米食です。パンチのある味付けのスープはごはんが進みそうですね。酸辣湯は暑いときに汗をかきながら食べるとおいしいですよ。
豚肉 | 70g |
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干し椎茸 | 2枚 |
干し木耳 | 4枚 |
筍 | 50g(水煮) |
絹ごし豆腐 | 100g |
長ねぎ | 12cm |
卵 | 2個 |
鶏ガラスープ | 800ml |
塩 | 小さじ1/2 |
醤油 | 大さじ1 |
砂糖 | 小さじ2 |
片栗粉 | 大さじ2 |
黒酢 | 大さじ1 |
胡椒 | 小さじ1/2 |
唐辛子 | 1本 |
ラー油 | 適宜 |
干し椎茸を水(分量外)、木耳はぬるま湯(分量外)に浸けてもどす。10分ほど浸けたら食材を取り出し、水気をよく取っておく
熱湯を用意する。豚肉は細切りして塩と酒(分量外)でもみ込む。せん切りした木耳と筍はザルに入れ、熱湯をかけてアクを取る。軸を取った椎茸と長ねぎ、唐辛子はせん切りにして、豆腐は細切りにする。
鶏ガラスープを入れた鍋を強火にかける。スープが煮たったら、肉を塊にならないように入れて、豚肉、椎茸、木耳、筍、長ねぎを加える。塩、醤油、砂糖で味をつけて、倍量の水(分量外)で溶いた片栗粉を加える。
鍋に豆腐を入れて崩れないように温め、沸騰したら溶き卵を細くたらしながら入れる。胡椒と黒酢を加えて火を止める。醤油と胡椒で味を整えて、器に盛る。ラー油を垂らしたらでき上がり!
――明日につづく。
文:有賀薫 写真:キッチンミノル