
進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、錦糸町の裏路地で長く愛される焼肉酒場「錦糸町ホルモン天狗 本店」だ。昼12時から夜中まで休憩なしの通し営業で、ランチメニューはなし。日の高いうちから、夜と同じ肉と酒を気兼ねなく楽しめる。タン先を分厚く焼いた「味噌漬タン」や、カルビ、ロース、ハラミを盛り合わせた「ミックス焼肉」など、肉の質と豪快な盛りにも驚かされる。気取らず、たっぷり食べて飲める、錦糸町の焼肉酒場の魅力に迫ります。
このところ、ふと気がつくと錦糸町に足を向けている。
錦糸町PARCOの1階にある「すみだフードホール」は都心の類似業態を蹴散らすレベルで楽しいし、マンションの一室にあるビストロや、マグロブツに行列ができる「魚寅」も心躍らずにはいられない。北口の発酵居酒屋なんてセンスがあまりに素晴らしく、週に2回ものれんをくぐってしまった。もう行く店行く店、片っ端から面白いのだ。
焼肉だってそうだ。錦糸町の北口を出るとロータリーの向こうに、東西に走る北斎通りに焼肉店の看板がずらり。駅前のこの通りに10軒近い焼肉店がひしめき合う。

だが本命はその裏にある。昼の12時から夜の23時30分まで休憩なしでぶっ通し営業。というと、前回のランチからディナーまでを引き受ける「藤栗ホルモン」にも似た業態に思えるかもしれない。
が、錦糸町の裏道にあるこの店はひと味違う。通し営業でありながら、ランチメニューはない。終日、同価格で同じ酒と同じ肉のみが提供される。
戸を引けば、誰もが日の高いうちから大手を振って酒を嗜み、誰に気兼ねすることなく肉を炙る喜びが味わえる。ここではすべてが許されている。
壁の短冊と卓上メニューを一通り眺めたら、喉と胃袋が鳴り始めた。まずは壁の短冊にあった「夏の限定 塩スイカサワー」とつまみをいくつか注文する。

一口喉を通して驚いた。確かにスイカなのに凝縮感に満ちている。「取引先の酒屋が自家製で作っている季節限定品」というこのサワーがもう味もセンスもキレッキレ。「旬ごとに作っている」というから、早くも秋のサワーが楽しみになる。

これである。
白髪ねぎの下には角煮サイズのタン下が山と盛られている。推定150g。これにご飯と汁物があればもう十分なボリュームだが、とろとろに煮込まれていてまるで飲み物のように喉を通過していく。
そしていよいよ焼き物へと突入する。まずは味噌漬タンから。タン先の味噌漬けだ。硬いタン先は通常は煮込みや超薄切りにして提供される。そのタン先に包丁仕事を施して、肉を軟らかくする舞茸と味噌で漬け込んだという。


それにしても分厚い! 過去に見たタン先としてはもっとも厚い。この厚さなら、4切れで120gはあるだろうか。本当に噛み切れるのか……とほんのり疑念を抱えつつ、七輪上の焼き網で丹念に炙る。芯がミディアムになる程度に熱を入れた一片を引き上げ、思い切ってかぶりつく。ザクン! という歯切れが返ってきた。確かに弾力は豊かだが、きっちり噛み切れる。もはや新食感と言ってもいい心地よさだ。
続く「ミックス焼肉」はハラミ、カルビ、ロースのセットだが、これも量がきっちり盛り盛りだ。3種類合わせて250gはあろうかという気っ風のいい盛りだ。「単品なら1人前100g以上で出します!」という近年あまりない盛りに気分が上がる。
しかも「並」なのにロースは黒毛和牛のイチボ、カルビは国産牛のカイノミやマエバラ、インサイドスカートなどから日替わりで切り出していく。もちろん食感が大切なハラミは厚切りだ。
この日のカルビはたぶんインサイド。薄切りでもザクザクとした歯ごたえの奥から濃厚な風味がしみ出てくる。ざっかけない雰囲気に対して、思いのほか上品な味つけに、するすると肉が胃袋に落ちていく。
残しておいたつまみのごま塩ねぎを巻いてタレにちょんとつける。味が一段強くなる。卓上のコチュジャンをつければ、ますます味にパンチが乗る。
そして仕上げは辛味噌ダレのホルモン三点盛。この日はマルチョウ、シロコロホルモンに加えて、ハツの角切り。やっぱりホルモン焼きは七輪に限る! かくしてみるみるうちに推定700gの肉が胃袋へと消えていった。
時間をかけ、地域に根ざすことでしか出せない味がある。2003年に半蔵門線が錦糸町(を越えて押上)まで延伸してからもうすぐ四半世紀。その間に町はいい塩梅に熟成された。
この町には肉好きの気持ちをわかってくれる焼肉酒場がある。

文・写真:松浦達也