
進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、この6月に蔵前店をオープンした「焼肉BEAST」だ。正肉は但馬牛ブランド「太田牛」だけを使い、部位ごとに味つけまで細やかに変える焼肉は、店主・山田貴弘さんの肉への愛情と探求心の結晶。一枚一枚を最高においしく食べさせる、新しい町焼肉の魅力に迫ります。
いい焼肉店は、店主の肉への愛情と熱量で決まる。この6月に2号店となる蔵前店をオープンした「焼肉BEAST」。オーナー店主は浅草の名店「本とさや」創業家の血筋を引く山田貴弘さんだ。現在、本店・蔵前店ともに、正肉は兵庫県の但馬牛ブランドである太田牛のみを扱う。肉好きなら誰もが手放しで喜ぶ月齢30カ月以上の「但馬のメス」の焼肉なのだ。
しかもその極上肉を工夫あふれる仕立てでお値打ち料金で食べさせる。例えば、BEAST5種盛り(各2切れ)5,500円。基本は厚切りタン、上タン、ジンジャーカルビ、上赤身、炙り3秒ロースが2枚ずつ食べられる。

「蔵前店の味つけは本店に比べて少し濃い味つけで、ライスやお酒が進む味。誤解を恐れずに言うなら、ちょっぴりジャンクなイメージです」

焼肉業界ではいい和牛には塩ダレなどシンプルな味つけをすることが多い。だが正肉のブランドを一種しか使わない「焼肉BEAST」では、部位やカットに合わせて味を細やかに調整している。この日の5種盛りは5種すべて味つけが違っていた。タンも厚切りタンには塩、上タンには塩ダレと、細やかに使い分ける。
ホルモン5種盛り1,900円も上ホルモン(シマチョウ=大腸)と激辛野獣ホルモン(ショウチョウ)では味を変えているし、ツラミなどは「鮎が好きで蓼酢をモチーフにした青酢で」食べさせる。青酢のほのかな苦味が、ツラミの奥の方にあるミネラル感を引き出していく。

山田さんは中学卒業後、高校に通いながら「本とさや」の厨房に入り、数年で肉の仕入れ業者をすべて変えた。
「当時いろいろ調べるうちに『うちの肉、これでいいのかな』という疑問が湧いてきたんです。そうして勉強したり、芝浦でいい肉卸を紹介してもらったりしているうちにいいご縁もいただくようになりました。板橋にある正肉の丸富商店と、内臓卸・三橋商店は当時からの付き合いです。20歳の頃、丸富商店さんのトラックで市場まで行って、競り場にも立たせてもらったことがありました」

アルバイト時代も含めて、「本とさや」で11年間修業し、その後兄とともに2014年「焼肉やいち」で独立。さらに2018年、30歳で「焼肉BEAST浅草店」を立ち上げた。
浅草店のカウンターでは客の眼の前で炭火焼きにして提供する、肉割烹スタイルを確立した。太田牛のスープも使う看板「すだち冷麺」は浅草店で生まれ、蔵前店でも提供されている。盛岡直送の特注麺にごくごく飲めてしまう、すっきりした旨味のスープ。ほのかなすだちの酸味とかすかな苦味が荒々しい焼肉の味わいをきれいに洗い流してくれる。

一方、蔵前店ならではのメニューもある。長芋キムチや春菊のナムル、赤海老の醤油漬け(カンジャンセウ)といった浅草店にはない一品料理がそれだ。
さらに蔵前店にしかない〆を求めてくる客もいるという。スパイスをブレンドしたカレーソースを土台に、太田牛のスジ肉を半分溶けるまで煮込んだ太田牛熟成カレーである。

「浅草店でまかないで作っていて、スタッフから大人気だったんです。でも、当時の仕入れの量だとお客様に出せるほどの量が確保できなくて。いまは仕入れの肉の総量が増えて蔵前だけですが、出せるようになったんです。ご常連には『専門店作ってよ』なんて言われますが、肉の量がとても間に合いません(笑)」
店主が惚れ込んだ肉を部位ごとにタレを変えて提供し、トリミングしたスジ肉をとろけるまで煮込み、太田牛で取ったスープを冷麺に展開する。肉への愛情がダダ漏れの焼肉店でありつく焼肉は言わずもがな、焼くほどに腹が鳴る味わいだ。

文・写真:松浦達也