
編集部が注目する、おいしくて居心地のいい店をご紹介する連載「いい店見つけた!」。前回は、美食&美酒を楽しむガストロバー「SODDEN FROG(ソドゥン フロッグ)」のコース料理の全容をご紹介しましたが、11回目となる後編では、ドリンク&アラカルトをお見せします。
ミシュラン二つ星で世界中からゲストが訪れる、日本を代表するフレンチ「Florilège(フロリレージュ)」オーナーシェフ川手寛康さんが監修を務めるガストロバー「SODDEN FROG(ソドゥン フロッグ)」(詳しくは前編をどうぞ!)。
カクテルを担当するのは、「フロリレージュ」のバーテンダーとして活躍した高田真之助さん。川手さんの料理にピタリとハマる変幻自在なカクテルで抜群のセンスを発揮して、多くのファンを獲得してきた。ここ「ソドゥン フロッグ」では、より自由でクリエイティブなオリジナルカクテルを生み出している。
シグネチャーカクテル‟Mizu Yokan”は、ネーミングの通り和菓子の水羊羹をカクテルに再構築したもの。米麹と甘酒をインフューズしたウォッカをベースに、小豆と卵白を合わせ、色を抜いた桜のリキュールで香りづけした。日本らしさを表現しながらも、「日本の味といえば抹茶」に食傷気味な日本人にも刺さるフレーバーだ。

こちらはカクテルコースから‟春のストロベリーハイボール”(単品の場合2,000円)。ふきのとうを漬け込んだ芋焼酎をベースに、貴腐ワインでリッチな甘さをプラスして、ベルモットとフレッシュないちご、最後に炭酸水を加えた。見た目はかわいらしいが、いわゆる「女性のお客様が好む味」には仕上がっていない。


一方、モクテル(=ノンアルコールカクテル)もこれまたすごい。一般的に、これまでのバーはアルコールを嗜むことを前提としていて、ノンアル派にとっては少し気後れする場所だった。だが「ソドゥンフロッグ」では、モクテルをはじめノンアルコールも充実している。というよりアルコールとノンアルコールが同格に扱われている。前編では「料理とドリンクが共に主役」と書いたが、正確には「料理とカクテルとノンアルコールドリンクの三者が主役」だ。モクテルは、ワインを中心に飲料全般に深い知識を持ち、川手さんの料理にドリンクを合わせてきた児島由光(よしみつ)さんが担当している。
こちらは「モクテルコース」の新作(取材時)「ふきのとう」。芸術的なビジュアルが目を引くこの一杯は、黒ぶどうのジュースをベースに、ふきのとう、発酵ウーロン茶、ココナッツミルクで風味づけ。乾燥させたふきのとうで土を、そこからのぞくフレッシュなふきのとうで芽吹きを表現し、古いものから新しいものへの生命のサイクルで春らしさを演出した。

ソムリエとしても活躍する児島さんはアルコール全般に知識が深く、ワイン文化のすばらしさやお酒の持つポテンシャルを十分理解したうえでモクテルに向き合っている。私見だが、ここが重要なポイントで、お酒を飲まない人が手がけるノンアルドリンクは、アルコール派の私には甘さを強く感じるなど、料理に合わせにくいことが多い。どうしても「お酒を飲まない人のもの」と、自分との距離を感じてしまうのだ。一方、お酒好き(=児島さん)のつくるノンアルドリンクは、味や香り(とりわけ苦味と酸味)のバランス感が、お酒好きにとっても満足度が高い。「たまにはノンアルでいきたい」というアルコール派も、しっかり満喫できる。ここに趣味でもある植物の知識を注ぎ込み、現代的な生け花を思わせる独創性あふれる自由な「児島ワールド」を展開している。

前編では繊細な9皿の小皿セットメニューを紹介したが、楽しいアラカルトメニューもある(予約不要)。こちらは川手シェフが「『フロリレージュ』では出せないバーフードならでは」と真っ先に考案した煮麺“Nyu Carbonara 煮カルボ(ニュウカルボ)〜鶏白湯 温そうめん〜”1,800円。
宮城県白石市の特産品「白石温麺」を、自家製の鶏白湯がベースのソースでカルボナーラ風に仕上げた麺料理で、食べる直前に12カ月熟成のコンテチーズをたっぷりすりおろす。日本人にとってはシメのラーメン感覚、外国人にとっては日本を感じながらもパスタ感覚で親しみを持って食べられる。

「フロリレージュのバー」としてオープンしてから半年以上過ぎ、近ごろは「ソドゥン フロッグ」らしさがどんどん芽生えてきた。たとえば児島さんによる秘伝のスパイスを用いたチャイ“Chaijima’s Chai(チャイジマさんのチャイ)”1,800円。スパイスの香りと甘味のどちらもしっかりあり、本場インドのチャイを思わせる。「チャイジマ」ステッカーを制作したり、外部でポップアップを行ったりと、ブランド化も目指している。

‟アクツのお手製ドーナッツ“600円は、もちふわの生地もカスタードも阿久津さんの手づくり。クラシックなカスタードクリームを炊き、中に詰めている。最近は、“Chaijima’s Chai”のテイクアウトも始まった。


「ソドゥン フロッグ」をプロデュースした「フロリレージュ」オーナーシェフの川手さんは、私が知る限り、世界の最先端の現場をもっともリアルに体験してきた料理人のひとりだ。長年にわたり、どんなに過酷なスケジュールであろうと現地に足を運び、その土地を見て人々の声を聞き、肌感覚で経験を重ねて来た彼は、見える世界線が違うのだろう。「ソドゥン フロッグ」には、海外の最先端と日本らしさを融合したような、グローバルでユニバーサルな空気感が漂っている。

英語表記が中心のメニューには材料が明記されているほか、酸味・うま味・甘味・苦味・(アルコールの)強さがイラストを使った5段階で視覚的に表示され、どんな言語を使う人も、カクテル初心者も、直感的に選びやすい。
「ガストロバー」がトレンドになった背景には、世界のフードシーンで、より生産性が求められるようになったことがある。世界情勢からやむを得ないとはいえ、値上がりが止まらないファインダイニングと比較して、手ごろな価格帯の「ガストロバー」は「コスパ」がいい。コース料理のために2、3時間費やすこともなく、ドリンク1杯でもOKと「タイパ」がいい。最先端の場所でサクッとリフレッシュできて「メンパ(メンタルパフォーマンス)」がいい、などなど。さらに、増え続ける「ソバーキュリアス(お酒を飲める体質でもあえて飲まないライフスタイルを選ぶ人)」も、料理を目的に足を運びやすい。
けれども、それだけではない。「ガストロバー」という新しいジャンルに新しい楽しみを提案しようと、「ソドゥン フロッグ」は、海外のバーとコラボをしたり、より料理に力を入れたコース料理とカクテル・モクテルのペアリングを提案するイベントを期間限定で開催したりと、独自の新しい取り組みを始めている。
今年(2026年)7月には、バーのアワード「Asia’s 50 Best Bars(アジアのベスト50バー)」がマカオで発表される。世界での戦い方を知り尽くした川手さんがディレクションしているとあって、どこまでランクを上げて初登場するか、アジア中が期待を込めて注目している。
日本発のガストロバーがアジアへ、そして世界へ羽ばたいていく。そんな姿を見る日が待ち遠しい。

※文中の高田さんのお名前の漢字「高」は、正しくは“はしごだか”です。ネット上で正しく表示されない可能性があるために「高」と表示しています。
文:詩文 shifumy 撮影:よねくらりょう