東京町焼肉最前線!
【蒲田】目利きのプロ・食肉卸の三代目が"血統主義"で選び抜いた牛肉を出す焼肉店「肉の頂」

【蒲田】目利きのプロ・食肉卸の三代目が"血統主義"で選び抜いた牛肉を出す焼肉店「肉の頂」

進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、食肉卸三代目が店主を務める、蒲田「肉の頂」だ。店主が重視するのは、等級や見た目ではなく「誰が育てたか」「どんな血統か」という肉のバックボーン。勉強熱心な店主による同店の魅力に迫る。

なぜ「血統」が重要なのか

本連載でも何度か取り上げている「三代目」世代の充実。祖母から父へ、父から子へと焼肉が継がれた砂町「スタミナ苑」、祖母から孫へとのれんが継がれた立石「幸泉」、キムチ店の祖母から韓国料理店の父、焼肉店の兄と店舗が継がれた高円寺「ここち」――。

いずれの名店も「焼肉」の系譜だが、蒲田「肉の頂」のニュアンスは少し違う。祖父の精肉店を父が食肉加工・卸に業態転換したいわば食肉エリートの「三代目」だ。

1990年生まれの店主の鈴木大志さんは「肉の頂」の来歴をこう語る。

鈴木大志さん

「もともとおじいちゃんが1951(昭和26)年から大田区の六郷土手で精肉店を営んでいたんです。その店を継いだ父が『これからは町の個人店だと厳しい』と考えて、川崎に流通センターができたのを機に食肉卸に業態を変えたんです。僕が16歳で『闇市倶楽部』に入ったのも、親父に『知り合いの店でバイトしてこい』って言われたのがきっかけですね」

タン
「闇市倶楽部」時代の味つけの設計が土台になっている並タン(左1,078円)と、よりシンプルな味つけで味わいを追求した和牛特上タン(右2,420円)。

焼肉業界では伝説として語られる「闇市倶楽部」にアルバイトに入り、都内から横浜・川崎まで当時展開していた全十数店舗を経験。その後、家業の精肉卸が川崎の焼肉店「闇市肉酒場」を買収したのを機に家業を手伝いながら、焼肉店の運営にも本腰を入れることになる。そして2015年「肉の頂」をオープンさせた。

肉
川崎・東扇島の食肉卸も経営しているので、正肉・内臓問わず全国から選りすぐりの肉が届く。和牛の特上ハラミ(3,300円)などの仕入れも盤石。
肉
川崎・東扇島の食肉卸も経営しているので、正肉・内臓問わず全国から選りすぐりの肉が届く。和牛の特上ハラミ(3,300円)などの仕入れも盤石。
肉
川崎・東扇島の食肉卸も経営しているので、正肉・内臓問わず全国から選りすぐりの肉が届く。和牛の特上ハラミ(3,300円)などの仕入れも盤石。
川崎・東扇島の食肉卸も経営しているので、正肉・内臓問わず全国から選りすぐりの肉が届く。和牛の特上ハラミ(3,300円)などの仕入れも盤石。

「最初は散々でしたけど、映えるメニューや他店とのコラボで店自体は、なんとか軌道に乗せることができた。でも数年経っても、自分自身が肉自体のことをよくわかっていない。当時は『但馬牛って何?』というくらい肉のことを知らなかった。このままじゃダメだ。そう思ったんです」

肉を知りたい。その一心で食肉の歴史で一日の長がある関西へ勉強に赴いた。松阪や鳥取の生産者を訪れ、神戸ビーフや但馬牛のお膝元、神戸市場にも足を運んだ。最初はすげなくあしらわれても、繰り返し訪れるたび距離は縮まった。関東ではほぼ格付等級で評価するが、関西では血統から肉質や味を推測する。格付等級以外にも重要な評価指標があることを知った。

肉

「『見た目はイマイチでも、あの血統なら絶対うまい!』みたいなことを西の人たちは言うんですよ。その頃です。まったく違うルートで八重山郷里牛と出会ったのは。元々は父がステーキ店で食べた肉がめちゃくちゃおいしいと言っていたから、試食用に取り寄せたら確かにすごくうまかった。そうしたらいつの間にか父がFacebookで生産者のきたうち牧場の北内(毅)さんとつながっていて、ある日北内さんがお店に現れたんです。びっくりしました。和牛のことはまだ勉強中だし細かいことはわからない。でも熱量で押したらなんだか卸してもらえることになったんです(笑)」

扱う肉が変わった。指標ではなく、「誰が育てた」「どんな血統か」を見るようになった。「肉のことを知ると、カットや味つけも変わるんです」。

「なぜこの味?」「なぜこのカット?」とそこに理由を求めたり、思いを込めるようになった。

以前は映えるメニューとしての位置づけだった「特上和牛6点盛り」(6,020円)の盛り込みも変わった。この日は八重山郷里牛と特産松阪牛が盛り込まれていた。ロースターで炙ると八重山郷里牛は肉の味が太く、特産松阪牛はサシから赤身のミネラルまで、肉の様々なうまみが口中にあふれてくる。品種も違えば部位も違う。

肉
肉
肉

ちなみに八重山郷里牛は前出のきたうち牧場が提案する素牛(繁殖牛として育てられる子牛)のブランドのこと。肉好き垂涎の但馬牛のなかでも食味がいいと言われる菊谷照、丸菊照など血統を厳選して肥育農家に育ててもらい、味が乗ってくると言われる32ヶ月以上肥育される雌牛のブランドだ。まだ子牛(8~10ケ月)の育成期間に、八重山地方ならではの牧草をふんだんに与えることで美味しい食味となる素地を作る。

一方の特産松阪牛は、ブランドとして知られる松阪牛のなかでも、ひときわ厳しい条件を満たしたものだけが名乗ることができる。同じく但馬血統の雌牛が条件となるが、肥育期間が900日以上という国内指折りの長期肥育牛だ。育てるのに手がかかる上に、生産者の高齢化なども手伝って、この数年は特産松阪牛が市場に出回らない年もあったほどだが、その食味のよさはつとに知られている。

認定証

「こうした肉を扱うと味つけがどんどん繊細になってきます。肉によっても、もみダレを吸いやすい肉と吸いにくい肉があったりもします。いま醤油ベースのタレだけで大きく4つあって、さらにそこから肉ごとに調整をしていく感じですね。他にも山形の斉藤畜産の「千日和牛」や福島のベルファームさんにもいい但馬血統の肉が多い。それぞれの肉のおいしさをうより引き出せるよう、もっともっと勉強していきたいですね」

熱は伝播する。「肉の頂」では営業終わりにまかないを食べた後、アルバイトも含めた有志で勉強会を開いたりもしている。「うちのバイトの子は入って3ヶ月もすると扱っている部位はもちろん、牛のこともすらすら説明できるようになる」という。

そうした店全体に充満する熱量がロースターの上で味となって結実する。血統を知り、肥育を知り、焼肉を知る。その先にこそ、目指す「肉の頂」はある。

カンバン

店舗情報店舗情報

肉の頂
  • 【住所】東京都大田区西蒲田7-4-3 2F
  • 【電話番号】03-3732-2985
  • 【営業時間】月~木曜 17:00~22:00(L.O.)金~日曜 ~23:00(L.O.)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】JR「蒲田駅」より3分

文・写真:松浦達也

松浦 達也

松浦 達也 (ライター/編集者)

東京都武蔵野市生まれ。家庭の食卓から外食の厨房、生産の現場まで「食」のまわりのあらゆる場所を徘徊する。食べる、つくるに加えて徹底的に調べるのが得意技。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)、『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(共にマガジンハウス)ほか、共著に『東京最高のレストラン』(ぴあ)なども。主な興味、関心の先は「大衆食文化」「調理の仕組みと科学」など。そのほか、最近では「生産者と消費者の分断」「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。