
進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、2024年3月に明大前にオープンした「ホルモンなごみ」。食肉卸「おくよし」直営の人気焼肉店「ら・ぼうふ」で10年修業し、四代目店長も務めた店主が提供する、和牛&ホルモンに注目です。
京王線の下りで明大前を過ぎたあたり、車窓から見える「ホルモン」の看板が気になっていた。目指す店は高架工事の影響は公道にも出ていて、駅からの道のりはつづら折り。店の建物はセットバックした建物の階上だ。通りすがりで階段を上がるのに少し勇気がいる。だが、階段を登ってみると、この上なく使い勝手のいい焼肉店に出会うことができる。

「駅から近いのに、明大前で下車する方には気づかれにくいみたいで……。でも『看板が気になって』来てくださるお客様もいるので、行って来いかもしれません(笑)」
店内には一人客も気兼ねなく座れるカウンター席とテーブル席合わせて全26席。平日は会社帰りの2人連れ、週末はファミリーで賑わう。最近はカウンターでハイボールを傾けながら、「タン4種盛り合わせ」(900円)、「おまかせ和牛3種盛り」(1,600円)「おまかせホルモン5種盛り」(950円)など、大ぶりにカットされた1枚ずつの盛り合わせを注文する女性の一人客も増えてきた。
店主の高松翔さんは、大分県中津市の出身。1991年生まれで今年で35歳になる。19歳で大学進学を機に上京し、アルバイト先を探していた。たまたま住んでいた家の一番近くにあった飲食店が、世田谷・用賀の名店「ら・ぼうふ」だった。
「当時は正直、飲食店ならどこでもよかったんです。まかないつきのバイトがいいな、と思って」
しかし働くうちに、飲食業の魅力に目覚め「この道で身を立てる」と決めた。すぐに大学を退学し、和食、焼き鳥など他の飲食も経験したが、「ら・ぼうふ」以上に心血を注ぐことのできる店はなかった。22歳で社員となり、32歳まで丸10年を過ごし、4代目の店長も務めた。
「ら・ぼうふ」は食肉卸「おくよし」の直営店だ。東京食肉市場で厳選した黒毛和牛の牝牛の枝肉を仕入れ、提供することで知られる。その10年の修業が、「なごみ」の礎となっている。独立したいまも仕入れは変わらない。
「肉は基本的には黒毛和牛です。人気のハラミもそうですね。僕が好きなのは黒毛の牝牛。格付けで言うとA5の中でも赤身っぽい個体が好きです。肉の好みがおくよしの社長と似ているから、安心しておまかせできます」
店名を「ホルモンなごみ」としたのは「ホルモンが大好きだから。単純ですけど(笑)」。出身の大分県中津市は鶏のから揚げの聖地としても知られるが、「小学校低学年から、たまの外食でありつくコブクロが大好きでした」というほどのホルモンネイティブだった。
それだけにホルモンを見る目は厳しいが、「オープン以降、『今日のはイマイチ』というようなホルモンは見たことがない。ありがたいです」という。客にとっても心強い限りだ。
単品での人気はシマチョウ、レバー、ハツ。「おまかせホルモン5種盛り」への盛り込みも相談できるし、単品のメニューにないギアラやシビレが入ることもある。1名分としてひと切れのカットが大振りなので、2名で盛り合わせを注文してハサミでカットしてシェアする客もいるという。

人気の部位も欠かさない。引く手あまたの和牛のハラミは「サービスメニューみたいなもの。できるだけ多くのお客さんに召し上がってほしい」と「おまかせ和牛3種盛り」にもあれば盛り込むようにしている。
もちろん単品でも「和牛はらみ」(2,500円)は注文できる。さらに生ユッケ(1,700円)も「絶対に出したくて」生食用食肉を扱えるよう設備を調えた。生食用の和牛は拍子木に切られ、その上で輝く卵黄は、高級卵「十六代真っ赤卵(まっからん)」。おつまみとして展開される煮卵にも採用されている。
その煮卵をぜひ添えたいメニューがある。「ら・ぼうふ」譲りの「大葉ごはん」(600円)だ。同時に煮卵を発注すれば、青紫蘇の千切りが山盛りとなった青々とした飯碗の脇にすっと差し出され、ほとんど真紅の黄身がひときわ目を引く。

鰹節と利尻昆布でだしを引いた「和風冷麺」(1,150円)にも、この煮卵は添えられている。

ここまで食べてもいまだ胃が軽い。「食べ終えた後のお腹の軽さを大切にしています」と仰るだけのことはある。
さらに特筆すべきは、カウンターの1名客向けに、ほぼすべての肉を1枚単位で頼むことができる専用メニューだ。
「おひとり様だと4枚も同じ肉はいらないじゃないですか。いろいろ食べていただきたいから」と言うが、おかわりなら2人連れでも「1枚」対応することもあるという。なんと親切な!
ここまでの細やかな対応は今のうちだけかもしれない。しかしここには生ユッケがあり、鮮度のいいホルモンがあり、毎日でも食べられる味つけがあり、一人客にもどこまでも優しい。京王線から見える「ホルモンなごみ」の看板が気になったら、ぜひ階段を上がってみてほしい。店のドアを開けると、構えたところのない空気感に拍子抜けして、ますます腹が減るはずだ。

文・写真:松浦達也