東京町焼肉最前線!
【幡ケ谷・dancyu肉特集号にも登場】日本一の肉が集まる芝浦での仕入れと、焼肉への強すぎる情熱が生む最強焼肉酒場「焼肉たぬき」

【幡ケ谷・dancyu肉特集号にも登場】日本一の肉が集まる芝浦での仕入れと、焼肉への強すぎる情熱が生む最強焼肉酒場「焼肉たぬき」

進化を続ける東京の町焼肉。その象徴ともいえる一軒が、幡ケ谷「焼肉たぬき」。本連載のきっかけとなったdancyu2025年春号「東京町焼肉」企画から約一年。芝浦仕入れ、カット、タレ――あの店はいま、どこまで進化しているのか。その変化と魅力を追います。

休むことなく焼肉を探求する情熱の店主

2024年10月、幡ヶ谷に「大衆焼肉店 たぬき」は現れた。
その年の暮れ、2025年dancyu本誌リニューアル号の肉特集「東京町焼肉」企画のために店主の田中隆太さんと初めて話をした。肉への愛情と熱量が尋常ではなかった。

通常、新店では仕入れられないような特上ハラミや特上サガリがメニューに堂々と記されていた。

これって新しい店としては、結構すごいことなのだ。タンやハラミなどは近年人気が高止まりしていて、特に和牛などの上物を新店で見かけることはまずない。

店主の田中隆太さん

和牛だけではない。断片的なテキスト情報からGoogle Mapにも載っていない豚焼肉の名店を探し出し、片道3時間の道のりを何度も通い詰めるほど惚れ込んだ。通いに通って、肉の目利きとタレを学んだ。
後日、その店に同行して驚いた。桁外れの鮮度、他にはないタレ、驚愕の締め――どれも凄まじかったが、単線を乗り継いで何度も足を運ぶ田中さんの情熱に頭が下がった。

田中さんの仕事ぶりは休みなどないかのようだった。「たぬき」オープン前から自宅の冷蔵庫は肉と試作した無数のタレでパンパンだった。いまも自ら肉を引き取りに行き、新しいタレを作っては仕入れ先に試食してもらう。
「いえいえ、休みは取ってますよ。今月(2025年12月)は2日休みました。あ、でも、その2日も早い時間は芝浦に仕入れに足を運んだり、店で仕込みをしていましたけど」

世間ではそれを休みとは呼ばないと思うが、ともあれその「休日」に、志を同じくする焼肉店の店主や肉卸とロースターを囲み、先達から学び続ける。真摯な姿勢で信頼を勝ち取り、情熱で周囲の胸を打つ。この店主にとって、焼肉こそが人生なのだ。
各所に積み上げた信頼の積み重ねで、「たぬき」は黒毛和牛のハラミやタンといった焼肉店垂涎の素材も、より多く仕入れられるようになった。オープンから1年、仕入れもカットもタレも、すべてが進化していた。

芝浦仕入れの肉を、さらに旨くするための徹底した仕事

近年、ハラミやタンといった人気部位の洗いや血抜き、保存については芝浦の卸に一日の長がある。全国一の肉が集まる市場だけに知見は分厚い。特に速やかかつ細やかな処理が求められる内臓は、それぞれの卸に独自の仕上げ手法がある。一方で、熱量の高い卸同士は情報交換も密だ。

肉

「内臓肉は、最初に処理をする卸さんの仕事ひとつで質が大きく変わります。そんな話を聞くだけでも、勉強になります。店での肉の扱いもずいぶん変わりました」
そう語る田中さんが仕入れる「芝浦ハラミ」は、味が濃く雑味がない。きっちり焼き上げるとザクザクとした食感の向こうから力強い肉の味が押し寄せる。

肉
肉
肉

一方の「芝浦サガリ」もこの美しさ。少し柔らかで繊細な繊維にタレの味がよく絡む。

肉
肉
肉
肉

タンは香り高く、清らかですらある。サクッとした繊維から美しい脂がにじみ、その奥深い味わいが柔らかく伸びていく。ほのかな焼き目でも味わいは美しく、深い焼き目をつければ香ばしさがグイッと立つ。
まさに「美味」なるタン。だからベースの塩ダレは飲めるほど淡い塩味に抑え、脂を穏やかに切る程度の酢を忍ばせた。
もともと「たぬき」では厨房に白砂糖すら置かないほど調味料を厳選していた。だがその一方で大衆店という立ち位置も崩さない。淡い塩ダレだけでも旨い黒毛のタンに、誰にもなじみ深いカットレモンも添えるし、少し濃くしたつけダレも用意する。塩漬け胡椒を添えれば、清涼感にパンチも加わる。

肉
肉
肉

タレを弾くほど脂の多い正肉用のタレには粘度とコクを増すため酒粕を加えた。詳細は伏せるが、もみダレとつけダレの味のバランスも、焼肉店の常識とは真逆のアプローチ。絶妙のバランスで無限に食べ進められるほど、後味に爽快感がある。
焼き方の提案も皿の上に込めた。大ぶりに切った並レバーはたっぷりのごま油に浸かっていて、「何度か皿のごま油につけながら焼いてください」とサジェストが入る。長いこと焼肉店で「もうひとつごま油をください」と言い続けて不審がられてきた身としては、なんともありがたい仕立てだ。皿の油で休ませながら内部をミディアムに焼き上げる。素性のいいレバーだけあって、とろりとしたクリーミーな食感からレバーのいい香りが立ち上る。

肉
肉

牛だけではない。「片道3時間」の豚焼肉店で薫陶を受けた豚ホルモンメニューも充実の一途だ。
辛味噌ダレに覆われたシロは火を入れながら、表面に引き出した脂で揚げ焼くように軽く焦がしを入れていく。表層にパリッとした食感が加わった豚の大腸は、芳香と辛味噌ダレが絡み合い、口の中でどこか懐かしい味わいへと変化する。

肉
肉
肉
肉

この日のホワイトボードのおっぱい(チチカブ)を噛み締めるとクリーミーなコクとミルキーな甘味が広がり、チグチ(タンの付け根とのどがしらの間)はシャクッとした楽しい食感が味わい深い。トントロは分厚いカットに細かな切り込みが入った丁寧な仕事。噛むほどに豚の野趣があふれてくる。

肉

肉とカットとタレのバランスが見事すぎて言葉もない。考えながら食べる無粋を恥じて、何も考えずに口に放り込んでもまた旨い。
口直しのつもりで頼んだ青唐辛子冷つけ麺(ハーフ)をすすりながら、最後にもう一皿、と考えた。

青唐辛子冷つけ麺

昨年の本誌春号でも取り上げた「ブリスケ」が頭をよぎった。

ブリスケという部位は、普通に焼くと硬くなる。だから客が焼く焼肉店ではあまり見かけない。でも赤身の味は濃く、噛むほどに味が伸びる。焼肉を愛する田中さんは去年の時点で工夫を凝らしてメニューに載せていた。

いま、あのブリスケはどうなっているのか――。

こうなっていた。

肉

差し出されたブリスケは約4mmに手切りされ、無数の細かい包丁が入っている。味わいも旨味も深いブリスケだが、焼肉にするとどうしても硬さが先に立つ。「ブリスケをおいしく食べたい」という情熱が、ここまで細やかな仕事をさせる。

肉
この日のブリスケは、塩ダレ、醤油ダレ、酒粕醤油ダレの3種。濃厚な肉の風味をそれぞれ違う角度から生かす味つけだ。
肉
この日のブリスケは、塩ダレ、醤油ダレ、酒粕醤油ダレの3種。濃厚な肉の風味をそれぞれ違う角度から生かす味つけだ。
肉
この日のブリスケは、塩ダレ、醤油ダレ、酒粕醤油ダレの3種。濃厚な肉の風味をそれぞれ違う角度から生かす味つけだ。
肉
この日のブリスケは、塩ダレ、醤油ダレ、酒粕醤油ダレの3種。濃厚な肉の風味をそれぞれ違う角度から生かす味つけだ。

先達という巨人に敬意を払い、顔の見えない業界常識を覆す。よりいい肉を求め、ベストな扱いを試行錯誤し、よりうまい焼肉を作り上げていく。今日も幡ヶ谷「たぬき」は昨日の「たぬき」を超えていく。

店舗情報店舗情報

焼肉たぬき
  • 【住所】東京都渋谷区幡ケ谷2‐7‐9
  • 【電話番号】03‐6300‐5560
  • 【営業時間】17:00~23:00(L.O.)ドリンクは~22:30(L.O.)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】京王新線「幡ケ谷駅」より2分

文・写真:松浦達也

松浦 達也

松浦 達也 (ライター/編集者)

東京都武蔵野市生まれ。家庭の食卓から外食の厨房、生産の現場まで「食」のまわりのあらゆる場所を徘徊する。食べる、つくるに加えて徹底的に調べるのが得意技。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)、『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(共にマガジンハウス)ほか、共著に『東京最高のレストラン』(ぴあ)なども。主な興味、関心の先は「大衆食文化」「調理の仕組みと科学」など。そのほか、最近では「生産者と消費者の分断」「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。

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