
食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「ナチュラルワイン部」では、今後、メンバーから寄せられた「ナチュラルワインの注ぎ手」を徹底取材してお届け。第7回は、清澄白河でワインを注ぐ『ガゼボ』の新宮未奈さんです。

東京の東側、清澄白河で毎夜、心底嬉しそうにワインを注ぐ人がいる。「ガゼボ」の新宮未奈さんだ。かつて東銀座にあった「カレーとワイン ポール」に立っていた彼女が、夫の朋樹さんとガゼボを開いたのは2020年のこと。自分たちの住む街にワインが気軽に飲める場所があったらいいな、を実現した店だ。
大型トラックのガレージを改装した店内は、風が吹き抜けていきそうな開放感ですこぶる気持ちいい。
「『ガゼボ』は、屋根と柱だけの建物のこと。日本でいうところのあずま屋です。すこんと天井が高くて大きな箱だったので、公園で飲んでいるような雰囲気にしたいなと思って店の名前をつけました」




ナチュラルワインに携わるようになって15年。アパレル業界から転向した未奈さんにワインの魅力を教えてくれたのは、東銀座時代の店で一緒に働いた姉御肌の先輩だったという。
「先輩は『これ美味しいから!』って、気前よくどんどん注いでくれる人でした。ワインの魅力を舌で覚えさせてくれたんですね。その先輩が注いでくれたなかで一番記憶に残っているのが、ノエラ・モランタンのワインなんです」ノエラといえば、ロワールでドメーヌを構えた日本人醸造家・新井順子さんのもとで醸造責任者を務めたこともある注目の造り手だ。
「先輩は、ノエラが醸造長だった時代に新井さんのワイナリーで働いていたことがあって。その頃の話を聞きながら飲んでいたせいか、勝手に親近感が湧きました(笑)。ナチュラルワインってこんなに美味しいのかと開眼するきっかけにもなった造り手です」
透明感があって、フルーティで優しい味わい。「今でも大好きなワインです」と迷いなく未奈さんは言う。

「うちの店の空気感にぴったり」と注いでくれたのは、フランス産のシードルだ。スイスでシードル醸造を始め、のちにノルマンディ地方へ移り住んだジャック・ペリタズによる1本。グラスに注がれた液体は弾けるようなオレンジ色で、見るからに果実味に溢れている。
「輸入している『ビーアグッドフレンド』の藤木さんの奥様が、野菜の卸と畑をやってるんです。つくばにある畑にたまに手伝いに行くんですが、畑仕事を終えたあと、風呂上りにそこに居合わせたみんなで、夕暮れを眺めながらシードルを飲むんですよ。
それがもう最高に気持ちよくって。お客さんにもぜひ、うちの店で飲んでほしい1本です」素朴で優しくて、柔らかなテクスチャー。アルコール度数も5%と低くするする飲める。野外で飲んでいるような雰囲気にしたかったというガゼボに、ぴったりの味わいだ。


「これも好きなワインです」
そう言って注いでくれたのは、フランスはラングドック地方でアクセル・プリュファーが醸した1本だった。
「10年以上前のことですが、インポーター主催のセミナーで来日した彼に会って、人柄に惚れました。東ドイツ出身の彼は戦争なんかしたくないからと徴兵を避けて、キャンピングカーで放浪の旅に出たんですって。その途中、南フランスでワイン造りに出会って感動して、今に至る。平和を愛する優しいお兄さんです」
そんな造り手の人柄を思わせるような、ひっかかりのないピュアな味わいで「ずーっと飲んでいたくなる」と未奈さん。

味わったときの記憶や造り手の人柄を大事にする未奈さんのワイン選びは、直観型だ。試飲会にいってもテイスティングのスピードは早く、「自分好みの味」が最優先なのだとか。好みはずばり「グビグビ系」。自称のん兵衛で、ずっと飲み続けられるようなワインが好きだという。確かに、今回挙げてくれた思い入れのある3本ともがぐびぐび飲みたい味ぞろい。
ワインと楽しめるのは、彩りのいいビストロ料理だ。いまは、近所で2軒目を出した朋樹さんに代わって、ガゼボの常連だったという中村梨沙さんが厨房に立つ。「メリハリある味が好き」という彼女の料理は、ニンニクをしっかりきかせたほろ苦いケールのサラダや、ぽってりクリーミーなポテトのうえに大ぶりのソーセージが鎮座する一皿など。もりっとした盛りつけにもテンションが上がって、グビグビ飲んでもりもり食べたくなる。



華やかな料理に、カフェのように抜け感ある雰囲気も手伝って、ガゼボはワインを飲み始めたばかりだという若いお客さんも多く引き寄せる。
「ということもあって、難しいことは抜き。私の説明もざっくりしています。梅鰹味、とか、青りんごっぽい味です、みたいな」。
敷居は低く。けれど、中途半端な店にしたくないからと、ノンアルドリンクは置かない。ワインを、そして自分の店を愛するからこその選択なのだろう。「この店でお客さんたちが美味しそうに飲んでいる姿を見ながら、『私もこの店に飲みに来たい!』って常々思いながら接客しています。今も、気持ちが飲み手側のまんまなんでしょうね」
そう話しながら未奈さんは、やっぱり嬉しそうにワインを注いでくれる。だからこそつい、もう一杯飲んじゃおうかなという気にさせられるのだ。

文:安井洋子 撮影:長野陽一