ナチュラルワイン愛のある注ぎ手名鑑
【神泉でナチュラルワイン】何を食べても旨い!陽気な立ち飲みイタリアン酒場で、食いしん坊たちが歓喜するワインを注ぐ/『ネーオ』稲部里沙さん

【神泉でナチュラルワイン】何を食べても旨い!陽気な立ち飲みイタリアン酒場で、食いしん坊たちが歓喜するワインを注ぐ/『ネーオ』稲部里沙さん

食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「ナチュラルワイン部」では、今後、メンバーから寄せられた「ナチュラルワインの注ぎ手」を徹底取材してお届け。第8回は、渋谷区神泉で大人気の立ち飲みバル『ネーオ』の稲部里沙さんです。

ふらりと寄れる陽気なイタリアンバル

店内

いつ行っても陽気なオーラに満ちている。みなワイワイ賑やかに立ち飲みしている。ここ「ネーオ」は、同じ神泉にあるイタリアン「アウレリオ」の姉妹店。15時開店、予約はとらない、立ち飲みオンリー。思い立ったらふらっと寄れる、気軽さの3拍子が揃っている。活気の源は若手スタッフたちの明るい笑顔。その輪をつくっているのが、ネーオでじゃんじゃんワインを注ぐ店長の稲部里沙さんだ。
「小さい頃から食べることが大好き」で、迷わず飲食業の道を目指した稲部さん。もともとは料理人志望だったという。調理師専門学校を卒業後はフレンチの業態へ進み、三ツ星「レフェルヴェソンス」のパン店「ブリコラージュ ブレッド&カンパニー」では立ち上げ時からパンを焼いたりもしていた。

カウンター
オープンは2021年。コの字型のカウンターは連日、おいしいもの好きで埋め尽くされる。
店長の稲部里沙さん
店長の稲部里沙さん。実は人見知りというが、店に立てば明るい笑顔が絶えない。

「リトロッツォ」でワインの楽しさに開眼

レ・コステ「リトロッツォ ロザート」
レ・コステ「リトロッツォ ロザート」


ナチュラルワインに出合ったのはちょうどその頃。歳は22、3の頃だった。
「お酒を飲み始めた頃のワインはさほどおいしいと思わなかったし、気軽に飲むタイプの酒ではないなと思っていたんです。でも、仕事終わりによく通っていた三軒茶屋の『awashima102』というレストランで、気づけばワインを好んで飲むようになっていて。あとになって、それがナチュラルワインというジャンルなんだと知った感じです。ある日、その店で出会ったのがリトロッツォ。『ワイン?ジュースみたいじゃん!』って、衝撃的でした」

イタリアはラツィオ、レ・コステのカジュアルライン、リトロッツォ。ファンも多い透明瓶の1L入りで、ポップなラベルが目を引く。
「そのとき女友達3人で白、赤、ロザートを、がぶがぶ飲みきっても体が軽やかで。ワインが好きになり始めた頃に出合って、ワインの堅苦しいイメージがぶっ壊されて、ワイン楽しい!ってハマったんです」

ロザート
「白も赤も好きだけどロザートが一番好き」だと稲部さん。透明感ある色合いどおりチャーミングな味わい。

1人でじっくり向き合いたい「ラシーヌ・ルージュ」

レ・カイユ・デュ・パラディ「ラシーヌ・ルージュ 2019」
レ・カイユ・デュ・パラディ「ラシーヌ・ルージュ 2019」

今はイタリアワインに傾倒している稲部さんだけれど、フレンチが出発点だっただけにフランスのワインにも思い入れがある。
「人生で初めてボトルで買った1本」といいながら抜栓したのは、レ・カイユ・デュ・パラディの「ラシーヌ・ルージュ」だ。フランスはロワール地方の、熱狂的なファンを持つ造り手の代表作である。
「あるとき、友達と上野公園で飲むためのワインを持っていこうと、オンラインショップのFika(フィーカ)で3本買ったんです。そのうちの1本がこれ。当時はエチケットを見たことあるな、くらいの認識しかありませんでした。
公園でワイワイ飲んで、最後にラシーヌ・ルージュを開けて飲んだとたん、一気に酔いが覚めて。リトロッツォみたいなポップなワインが入口だった私にとって、ラシーヌ・ルージュの例えようのない深みと柔らかさに、こんなワインがあるのかと。感動しました。これはもう、1人でじっくり向き合いながら飲みたいワインです」

ラシーヌ・ルージュ
20種類以上の品種をアッサンブラージュしたラシーヌ・ルージュ。「滅多にお目にかかれないけれど、酒販店で見かけたら買ってしまいます」。

天国みたいな場所で味わったワイン

ポデーレ・ルイーザ「フオリーゾ」(右)、「アムネジーア」(右)
ポデーレ・ルイーザ「フオリーゾ」(右)、「アムネジーア」(右)

ワインに携わり続けていれば当然、造り手を訪れたくなるものだろう。昨年10月、初めて念願のイタリアを訪れた。トスカーナのワイナリー、ポデーレ・ルイーザは「天国みたいな場所だった」という。なだらかな丘陵地帯にどこまでも広がるぶどう畑。ふるまわれるのは、狩猟免許を持つ3代目当主・サウロが、畑を荒らす鹿や猪を仕留めて自らさばいてつくった極上のハムやサラミ。庭では、オリーブの樹の不要な幹を薪にして肉が焼かれて……。
「ごく当たり前のようにサウロ一家が自然の調和の中で暮らしていて、満たされている。その様子に感動しっぱなしでした。もちろん、ワインも美味しくてじゃんじゃん飲んで(笑)。ぶどうの茎ごと全房発酵する彼のワインはけっこう青みがあって、ガツッとくるけど食事とめっちゃ合うんですよ」
そう振り返りながら稲部さんは、樹齢70年のサンジョヴェーゼを醸した『フオリーゾ』を注いだ。さらに、目を輝かせながら「抜群に合いますよ」と鹿肉のローストをグラスの横に並べてくれた。イタリアを一緒に旅したネーオの料理人・内山恵礼菜さんが、現地で食べた味を再現した一皿。

料理あってのワイン、ワインあっての料理

鹿肉のロースト
鹿肉のロースト2,860円。

鹿肉のローストは、飾りけがなくて見た目はそっけない。けれど、ローズマリーやマスタードに赤ワインビネガーなどでマリネした鹿肉は、噛み締めるごとに深い香りが溢れ、複雑なアロマのフオリーゾに確かに抜群に合う。
サルシッチャとかぶの素朴な煮込みや、少し辛いトマトソースで味わう目玉焼きに、厚切りの本マグロのカルパッチョ。ネーオのキッチンを預かる内山さんの料理は大胆でシンプルで、味わえばどれもが滋味深い。毎日でも食べたいつまみにあふれている。

サルシッチャとカブの煮込み1,540円。
サルシッチャとカブの煮込み1,540円。

「恵礼菜の料理、本当にいいんですよ」
ワインはもとより、料理を語る稲部さんはとても生き生きしている。子供時代から根っからの食いしん坊。だからワインが、というよりも、食べて飲んでのワインが大好き。
「イタリア料理はシンプルだからこそワインの入るスキがある。粗削りなところもあるイタリアワインとシンプルな料理がバチッとはまった時の、お互いの味わいの伸びといったら。ほかにはない面白さがあると思うんです。それにイタリアのワインって、飲むとお腹がすく(笑)。だから私はイタリアワインが好きなんですよね」
飲むこと、食べること、そしておいしいものを提供すること。ひっくるめて全部が「好き」だと笑顔でいう彼女にワインを注いでもらうと、何だか元気が湧いてくる。人生、こういう時間が大事なのだと改めて思えてくる。

稲部さん(右)と料理人の内山さん(左)
稲部さん(右)と料理人の内山さん(左)はプライベートでも一緒によく飲み、よく食べる。いいコンビ!

店舗情報店舗情報

ネーオ
  • 【住所】東京都渋谷区円山町15-6
  • 【電話番号】090-6015-5960
  • 【営業時間】15:00~21:30(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】京王井の頭線「神泉駅」より1分

文:安井洋子 撮影:長野陽一

安井 洋子

安井 洋子

九十九里生まれ。東京に住んでみたけれど、海が恋しくなって葉山に移住。雑誌やウェブに食まわりの記事を執筆する。息抜きは、ナチュラルワイン好きの聖地・鎌倉でのひとり飲み。