
dancyu食いしん坊倶楽部メンバーと立ち食い蕎麦の隠れた名店や実力店を巡っていく連載企画。第3回はボリューム満点の肉そばが人気の「豊しま(としま)」にお邪魔しました。
東京をぐるりと一周する都営大江戸線と、南北に走る都営三田線が交差する「春日駅」。駅名に馴染みの薄い人でも、後楽園のすぐ近くといえば、だいたいのエリアは想像できるのでは。春日駅に直結した真新しいビルの一角に、今回訪れる「豊しま 春日店」はあります。
今回、この店を一緒に訪れるのは、「立ち食い蕎麦を選ぶ時は、早い、安い、旨いの3つに加えて、ヘルシーさを重視します」という、dancyu食いしん坊倶楽部メンバーの「Mariさん」。


この「豊しま」は1970年ごろに豊島区で開業し、その後、江戸川橋、飯田橋に店を構えた立ち食い蕎麦の人気店。春日店は2022年にオープンした、一番新しい店舗です。看板には「是れはうまい!肉そば 関東風」というキャッチフレーズ。「初めて食べる人は、想像を超えるビジュアルに驚いちゃうかも?」とMariさん。果たして、どんな蕎麦が食べられるのでしょう。まずは、Mariさんがよく注文するという「肉玉そば」から注文。


丼を覆いつくすようにのった豚バラ肉!真っ黒なつゆに、卵の黄身と白身が鮮やかに映えます。まずはつゆをひと口。見た目の色は濃いものの塩っぱくはなく、甘さの後にだしの香りがふわっと立ち上ります。少し太めの麺は、つゆとよく絡む。そして、なんといっても豚バラ肉。大きくて厚みのある肉は、少し甘めの味付けで柔らかく煮込まれていて、なんとも食べ応えのある一杯に。

「私は出勤時の早朝とか、ランチタイムを過ぎた午後とか、食事を摂るタイミングがちょっと変な時間になることが多くて。また、普段からジムに行ったりと運動をしているので、カロリーも気にしているんです。そんな時、ちゃんと食べ応えがあってタンパク質もしっかり摂取できるという意味でも、ここの肉そばはバランスがよくて、罪悪感をあまり感じないのもいいんです(笑)」(Mariさん)
肉玉そばのボリュームに驚いたのもの束の間。続いて注文した「厚肉そば」は、まさに想像を超える見た目!

厚さ1cmはゆうに超えるぶ厚い豚バラ肉が、圧倒的な存在感を放っています。そこに揚げ玉、薬味のねぎ。その堂々たるビジュアルは、まるで「肉と蕎麦に向き合って食え!」と煽られているかのよう。肉を箸で掴めばずっしりとした重量感、しかし口に入れたらホロッと崩れるような柔らかさ。甘めに煮込まれた味つけが、豚バラ肉の脂の旨さをより引き立てています。

「先代の頃から肉そばは人気だったんですが、私が店を継いだ時にインパクトのあるメニューを加えたいと提供し始めたのが、この厚肉そばなんです」と語るのは、社長の山崎さん。今ではSNSで見た人たちが、この厚肉そばを求めて遠方から訪れるという。
「豊しま」の蕎麦は、かえしが強めで色も濃いけれど、丸みのある味わいで、後味もすっきり。「鰹節をベースにした混合節でだしをひいてます。うちのつゆの要はかえし。醤油と味醂と砂糖を独自の配分で混ぜて、3~4ヶ月寝かせます。作りたてのかえしだと、醤油も味醂も砂糖が喧嘩して美味しくない。寝かせることで、味がまろやかになるし、色が濃くなる理由でもあります。このつくり方は、先代の頃から変えていないんですよ」(山﨑社長)
煮豚の圧倒的な存在感をしっかりと受け止める蕎麦つゆ。その丁寧な仕事ぶりからも、長く愛される理由が窺える「豊しま」なのでした。


文:宮内 健 写真:編集部