
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年秋号では、合羽橋で四代続く料理道具店を営む「釜浅商店」店主・熊澤大介さんに、浅草のとっておきを案内してもらいました。
雷門から駒形方面へ少し南下したあたり。シェフの菅又純一さんとソムリエの温子さん夫婦が営むビストロ「レーテ」は、オープンしてまだ3年ほどながら、すっかり浅草の街に溶け込んでいる。

「いつ訪れても満席で二人とも忙しく働いているんだけど、温かくて柔らかい接客で店じゅうが楽しい雰囲気に包まれてる。やっぱり彼らの人柄だよね」(熊澤さん)
南仏郷土料理を気軽に食べさせるこの店を気に入りすぎて、「パリに出張する前に食べに行って、帰国したらその足で立ち寄ってしまうぐらい好きな店(笑)。ここに来ると、なんだかホッとするんだよね」と笑顔で語る熊澤さん。まずはブルーチーズと蜂蜜のムースを頼み、温子さんお薦めのアルザスのオレンジワインをグビッと飲んで一息。

「ここは何食べても美味しいんだけど、よく注文するのはマッシュルームのオムレツ、九条ねぎとカラスミのパスタ……。あとブイヤベースも旨いんだよなあ。あらかた具材を食べ終えたらリゾットにしてくれてね。あ、店の看板料理であるカスレも外せない!」(熊澤さん)

黒板のメニューとじっくりにらめっこしながら、アラカルトで選べるのも嬉しいところ。
「うちはアラカルトしかやってないんですよ。コースだと出す料理が決まっているので無機質なサービスになりがち。そうなるとお客様との対話も少なくなってしまう。だけどアラカルトなら『これはどういう料理ですか?』とか『この食材はこんな味ですよ』っていう会話も生まれてくるじゃないですか」(シェフ 純一さん)
そんなシェフ夫妻の気さくな人柄が滲み出たような気取らない料理の多くは、ハーフポーションでの注文も可能。なので、ひとり客も多く訪れる。

「カウンターで1人でゆったり飲んでる人もいれば、若い子が2、3人で来て、ワインのボトルを何本も空けてたり。みんな思い思いに楽しんでるのがいいんだよね。僕も妻と2人で飲みに来たり、自分の母や子供たちを連れて家族でワイワイと食事したりと、いい時間を過ごさせてもらってます」(熊澤さん)
「浅草は地元の人が強いって噂を訊いてたけど、実際に店を始めたてみたら皆さんすごく協力的で。飲食店をやっている方が食べに来てくれて、気に入ったからと自分の店のお客様を紹介してくださったりもして。普通、そんなことないじゃないですか。浅草に店を出して本当によかったと思います」(シェフ 純一さん)


アンティークショップや家具店勤務を経て、2004年より実家である料理道具店「釜浅商店」四代目店主に就任。リブランディングを成功させ、パリとニューヨークに支店を持つ。

文:宮内 健 写真:衛藤キヨコ