私の行きつけ~住む町の旨い店案内~
【教えて、浅草の行きつけ】箸で食べる独創的なガレットと国産クラフトシードルの専門店~「釜浅商店」熊澤大介さんの紹介

【教えて、浅草の行きつけ】箸で食べる独創的なガレットと国産クラフトシードルの専門店~「釜浅商店」熊澤大介さんの紹介

その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年秋号では、合羽橋で四代続く料理道具店を営む「釜浅商店」店主・熊澤大介さんに、浅草のとっておきを案内してもらいました。

国際通り・浅草一丁目交差点のすぐ近く。浅草六区と合羽橋の間を往来する路地に、パッと見たら和食店のような外観の店がある。看板に書かれた「フルール ド サラザン」という店名は、フランス語で「蕎麦の花」という意味。そう、ここは国産蕎麦粉で使ったガレットと国産クラフトシードルの専門店なのだ。

カンバン
2019年開店。ランチ、ディナーともにドリンクと前菜のついたセットメニューを用意している。

店主の玉越幸雄さんは、日本にガレットを広めたクレープリー「ル ブルターニュ」に10年間勤務し、その内の5年をフランスの店舗に従事。ブルターニュへ渡り地元の食文化を研究してきたガレット職人である。帰国後、神田「眠庵(ねむりあん)」で1年間研修して日本蕎麦を学んだ後、妻の友香さんとともにこの店を開いた。

ガレット
ガレット

店内にある石臼で毎朝自家製粉する蕎麦粉は、食事系の“黒ガレット”には挽きぐるみ、スイーツ系の“白ガレット”には更級粉と使い分けて美しく焼き上げる……のだが、仕上がりの形状がなんとも独創的なのだ。ガレットというと外側を折り畳んだ四角形を想像しがちだが、「フルール ド サラザン」では、焼き上がった生地に具材を挟み、まるで海苔巻きのようにロール状に成形していく。そして、それを箸で食べる。

たとえば、黒ガレットの“ちりめん山椒のガレット”は、挽きぐるみの香ばしい生地に卵、ハム、チーズ、そして佃煮を合わせた和洋折衷な逸品。添えられただしつゆを軽くつければ、さらに風味が増す。

ちりめん山椒のガレット
ちりめん山椒のガレット。食事系の“黒ガレット”だけでも20種近くから選べる。

「友達同士で食べに来ていただいたとして、四角いガレットだとそれぞれが注文したものをシェアしにくいけれど、この形ならいろんなガレットを注文しても、箸でちょっとずつ摘めるじゃないですか。日本の食文化に合わせて考案しました」(玉越さん)

自家製塩バターキャラメルのガレット
“白ガレット”の、自家製塩バターキャラメルのガレット。上品な蕎麦の香りとカラメルの香ばしい甘味がベストマッチ。
具材なしのガレット
具材なしのガレットを、静岡オリーブオイルと静岡岩塩だけで食す。まるで蕎麦がきのような香りと食感が楽しい!

この店の魅力はガレットだけじゃない。国産クラフトシードルを、ボトルで常時30種以上揃えている。りんご農家などや日本酒蔵などが参入し、独自の発展をみせている日本のクラフトシードル。どんな銘柄を頼めばいいかわからなくても、ブルターニュのシードル醸造所で働いた経験も持つ妻の友香さんが、味わいや醸造者の背景を丁寧に説明してくれる。

国産シードル
各地から取り寄せた国産シードルは銘柄ごとに味わいや風味が違い、その幅広さに驚く。日替わりで飲み比べセットも提供している。

熊澤さんも「和の食材を取り入れたガレットがどれも魅力的。二軒目に寄って、シードルを飲みつつガレットを摘んで締めるなんて使い方もよくしています」とお気に入り。「このガレットを日本のスタンダードにしたい」と店主の意気込みも熱いこの店で、多くの人がまだ体験していないガレットとシードルの美味しさ、そして楽しさに出逢えるはずだ。

左から店主で夫の玉越幸雄さんと、サービス担当の妻・友香さん
左から店主で夫の玉越幸雄さんと、サービス担当の妻・友香さん。夫婦揃って、蕎麦とりんごにまつわる日仏の食文化への愛情が深い。

教える人

「釜浅商店」店主 熊澤大介さん

アンティークショップや家具店勤務を経て、2004年より実家である料理道具店「釜浅商店」四代目店主に就任。リブランディングを成功させ、パリとニューヨークに支店を持つ。

店舗情報店舗情報

フルール ド サラザン
  • 【住所】東京都台東区西浅草2-14-2
  • 【電話番号】03-6876-1851
  • 【営業時間】11:45~14:00(L.O.) 17:45~22:00(L.O.)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】つくばエクスプレス「浅草駅」より1分
dancyu2025年秋号
dancyu2025年秋号
A4変型判(160頁)
2025年9月6日発売/1,500円(税込)

文:宮内 健 写真:衛藤キヨコ

宮内 健

宮内 健 (編集者、ライター)

1971年、東京生まれ。音楽誌『bounce』『ramblin'』編集長を歴任し、フリーランスの音楽ライター、編集者として長らく活動している。2010年以降「食」や「酒」に関してもテリトリーを広げ、2018年から2024年まで『dancyu』編集部に在籍。数々の特集記事の企画編集や執筆を手掛けた。