私の行きつけ~住む町の旨い店案内~
【教えて、浅草の行きつけ】老舗喫茶店で出会った、ここにしかないタマゴサンドの衝撃の旨さ!~「釜浅商店」熊澤大介さんの紹介

【教えて、浅草の行きつけ】老舗喫茶店で出会った、ここにしかないタマゴサンドの衝撃の旨さ!~「釜浅商店」熊澤大介さんの紹介

その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年秋号では、合羽橋で四代続く料理道具店を営む「釜浅商店」店主・熊澤大介さんに、浅草のとっておきを案内してもらいました。

浅草駅から六区までアーケードが長く伸びる新仲見世商店街。新しい店も増えて様変わりしてきたこの商店街で、60年以上に渡り営業を続ける喫茶店が「銀座ブラジル」だ。狭い階段を登ってドアを開けると、時が止まったような空間が広がる。

外観
1963年開店。近年はレトロ喫茶好きなインバウンド人気もあって、開店前から行列になることも。フードは売り切れ次第オーダーストップ(12時前後目安)。

使い込まれたテーブルやカウンター、暖かな光で店内を灯すランプ、当時のモダンな意匠が随所に残るインテリア、壁に貼られた年季もののポスター、カップ&ソーサーにプリントされた店名ロゴのかすれ具合……。目に入るすべてのものに、この店が積み重ねてきた時間や、くつろぎのひと時を過ごした人々の想いが堆積している。

店内
店内

カウンターを覗けば、湯を張った鍋にコーヒーカップが常に温められている。注文ごとにハンドドリップで抽出するブレンド珈琲は、深煎りでしっかりとした苦味と香り、そして深いコクを感じるクラシカルな味わい。丁寧に淹れたこの一杯を味わいながらゆったりと過ごすのが、多忙な日々を送る熊澤さんにとって至福の時間なのだそう。

カップのあたため
旨いコーヒーを提供するための、この一手間が嬉しい。
冷めにくい厚手のカップ
ブレンド珈琲は、冷めにくい厚手のカップで提供される。

それにしても浅草にあるのに店名が「銀座ブラジル」なのは、どうしてなんだろう。「もともとコーヒー豆の輸入業をやっていた祖父が銀座に店を出してね。浅草はその支店だったんです。銀座の店は閉店して、今はここだけなんですよ」と教えてくれたのは、創業者の孫にあたる3代目店主の梶純一さん。店は梶さんの母と妻、そして料理長で回している。

3代目店主の梶純一さん。
3代目店主の梶純一さん。

メニューを見れば、トーストやサンドイッチなどの軽食メニューが並ぶ。「僕は、昔からここのタマゴサンドが大好きなんですよ」と熊澤さんが目を細めるそのタマゴサンドの具材は、ゆで卵をマヨネーズで和えたものでも、オムレツでもないのだ。

タマゴサンド
タマゴサンド。目玉焼きの卵は一人前に3~4個を使い、黄身をいい具合につぶしてある。他にもロースカツサンドやコンビーフサンドや、ハムトーストなど気になる食事メニューを揃える。

注文を受けてからスライスするエアリーな食パンに、まろやかな酸味のマヨネーズを塗って、そこに絶妙に火入れをした両面焼きの目玉焼きを挟む。このスタイル、この美味しさ、ちょっと他じゃ味わえない。もう一言加えれば、一人前とは思えないボリュームだ。

大好物のタマゴサンドを前に思わず笑顔になる熊澤さん。
大好物のタマゴサンドを前に思わず笑顔になる熊澤さん。

「昼にこれを食べたら、夜まで全然お腹が空かないですからね」(熊澤さん)
「正直言って、軽食ではないですね(笑)。一人前を普通に食べて、お腹を満たして帰ってほしいから。うちの食パンはサンドイッチ用とトースト用で、それぞれ粉の配合から変えて特注しているんですよ。もちろんマヨネーズは料理長の手づくりです」(梶さん)

タマゴサンドと並ぶ熊澤さんの大好物なのが、元祖フライチキンバスケット。軽やかな揚げ具合としっとりジューシーな鶏胸肉の旨さが抜群だ。「昔は、鳥一羽を捌いて骨付きで出してたんだけど、常連さんも高齢化してきて、食べやすくしてほしいとリクエストもあって。今はすべて骨なしの胸肉だけにしてます。でも、骨がないから肉の量が増えて、結果的にボリュームはアップしてるんだけどね(笑)」(梶さん)

元祖フライチキンバスケット
元祖フライチキンバスケット。ボテトフライとトースト、自家製ピクルスがついたこのボリュームで1500円はお値打ちだ。

ちなみに食事メニューは注文してから1、2時間程待つこともざらにある。「調理スタッフが料理長一人なので、仕込みに時間はかかるし、調理もオーダーが入ってからしか手をつけない。昔ながらのつくり方で、手を抜かずにやってます。だからお客様をお待たせしてしまうけれど、食べたらしっかり満足いただけるものを出しているつもりです」(梶さん)

「料理が出るまで時間かかることもあるけど、それを待ちながら読書をしたり、ぼーっと考えごとする時間もまたいいんだよね」(熊澤さん)

教える人

「釜浅商店」店主 熊澤大介さん

アンティークショップや家具店勤務を経て、2004年より実家である料理道具店「釜浅商店」四代目店主に就任。リブランディングを成功させ、パリとニューヨークに支店を持つ。

店舗情報店舗情報

喫茶ブラジル
  • 【住所】東京都台東区浅草1-28-2 2階
  • 【電話番号】03-3841-1473
  • 【営業時間】9:00~15:00
  • 【定休日】水曜 木曜
  • 【アクセス】東京メトロほか「浅草駅」より5分
dancyu2025年秋号
dancyu2025年秋号
A4変型判(160頁)
2025年9月6日発売/1,500円(税込)

文:宮内 健 写真:衛藤キヨコ

宮内 健

宮内 健 (編集者、ライター)

1971年、東京生まれ。音楽誌『bounce』『ramblin'』編集長を歴任し、フリーランスの音楽ライター、編集者として長らく活動している。2010年以降「食」や「酒」に関してもテリトリーを広げ、2018年から2024年まで『dancyu』編集部に在籍。数々の特集記事の企画編集や執筆を手掛けた。