
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年秋号では、合羽橋で四代続く料理道具店を営む「釜浅商店」店主・熊澤大介さんに、浅草のとっておきを案内してもらいました。
浅草・国際通りから上野・昭和通り間の約1.2kmを東西に走る、かっぱ橋本通り。東京スカイツリーを望むこの商店街にて、1998年から店を開くのが「七五三」だ。

ここ数年、若い世代やインバウンドにもんじゃ焼き人気が高く、浅草にも新しい店が増えているが、この「七五三」には熊澤さんも「地元の人も好きな店」と太鼓判を押す。開店当初から通っていて、家族と一緒にはもちろん、会社に近いのでスタッフたちと食べにくることも多いのだとか。

まずは牛すじ煮やキムチで一杯。鉄板が温まってきたら、牡蠣バターあたりの鉄板焼きをつまみにもう一杯。壁に貼られた品書きを見ると、もんじゃ焼き店ながらお好み焼きのメニューも豊富だ。

「女将(西原順子さん)は大阪出身で、昔からお好み焼きを焼いていて。東京に出て来てからは、月島でもんじゃ焼きの修業をしたそうなんです。なので、もんじゃ焼きとお好み焼きのどちらもうちの看板料理なんですよ」と説明してくれたのは、店長で女将の息子でもある西原宗路さん。慣れた手捌きで、ふっくらと厚みのあるお好み焼きに仕上げていく。


「そう、ここはママさんも名物なんだよね。美味しいのはもちろん、ママの陽気な人柄が地元で愛される理由かも」(熊澤さん)
そしていよいよ、もんじゃ焼きを注文。長年通う熊澤さんが決まって頼むのが、特製カレーコンビーフもんじゃだ。だしの効いた生地に、カレー粉、コンビーフ、牛そぼろ、餅、チーズが入った一品。なかなかに変化球なメニューだが、しっかりとスパイシーな味付けが後引く旨さなのだ。
ヘラを使ってちびちびと食べながら、ホッピーをグイッと飲む。これがたまらない。今回初めて特製カレーコンビーフもんじゃを食べた「釜浅商店」のスタッフも「めちゃめちゃ美味しい!これは完全につまみですね」と笑顔を見せる。鉄板の上では時間が経つにつれてカレーもんじゃの味も凝縮されていき、さらに酒が進む。もんじゃ焼きを囲んでスタッフとの親睦を深めながら、浅草の夜は更けていくのであった。


アンティークショップや家具店勤務を経て、2004年より実家である料理道具店「釜浅商店」四代目店主に就任。リブランディングを成功させ、パリとニューヨークに支店を持つ。

文:宮内 健 写真:衛藤キヨコ