
“チチャロン”という愛らしい響きとは裏腹に、ペルーの国民食「豚肉のチチャロン」は、豚バラ肉の塊を揚げた豪快な一品。dancyuでの取材をきっかけに、編集長・藤岡が常備菜にしていた肉料理でもあります。本場での食べ方は、想像以上にワイルドでした。
dancyu編集長の藤岡です。
ペルーに行くのは今回が初めてでしたが、日本で日々つくっていたペルー料理がありました。それは、豚肉のチチャロン。豚バラの塊肉をゆでて、水分が蒸発したら豚の脂身から溶け出したラードで揚げ焼きにする、パワフルな肉料理です。調味料は塩だけとごくシンプルですが、揚げているせいか、とても香ばしく満足感のある味わいになります。
チチャロンは、東京・代々木上原の「按田餃子」店主であり、料理研究家の按田優子さんの著書『たすかる料理』で知ったのが最初でした。この本では、自分のペースで自由に自炊をすることが提案されており、按田さんがたびたび訪れたペルーの食の知恵も生かされています。保存が効くチチャロンを活用しながら、いい意味の“いい加減”な自炊生活を東京で飄々と送る按田さんに、まるでジャングルを生きるターザンのごとき頼もしさを感じ、「カッコイイイ!!」としびれたものでした。
dancyu2023年10月号、一生食べ続けたい「ひと皿」特集でも、按田さんにはペルーでの食の思い出を綴っていただきました。芋と豆に関する実にユニークな考察は、按田さんならでは!
さらに、dancyu2025年春号の「日本一の肉料理」特集では、按田優子さんに豚肉のチチャロンのつくり方とそのアレンジ方法を子細に教えてもらっています。このとき食べたチチャロン料理がまあ美味しかったので、私はすっかりチチャロンにハマりました。
前置きがたいへん長くなりました!
そんなわけでチチャロンには思い入れがあり、ペルーで本場のチチャロンを食べられるのを私はとても楽しみにしていました。
さて、ペルーでガイドのミゲルさんに連れて行ってもらったのが、リマからナスカに向かう街道沿いにあるレストラン「EL PILOTO」。リマでは朝食にチチャロンを食べることが多いそうで、ここの朝食メニューのチチャロンサンド(パン・コン・チチャロン)が人気とのこと。
豚肉のチチャロンは皮付きの豚バラ塊肉でつくることが多いと聞いていましたが、サンドイッチ用なせいか、この店ではいろいろな部位のスライス肉をラードで揚げていました。しっかりとした歯ごたえで肉肉しい!チチャロンには、ペルーのさつまいも・カモーテを添えるのが一般的です。按田さんはねっとりと柔らかく炊いた甘いさつまいもをチチャロンに添えていましたが、私がペルーで見かけたのは薄切りにしてカリカリに揚げたものばかりでした。正直、私はねっとりとした按田式のさつまいもが好みですが、薬味の玉ねぎマリネ(サルサ・クリオ―ジャ)をたっぷり入れて食べると、カリカリ食感もいいアクセントになり、オツでした。
ガイドのミゲルさんは、「日本では母の日にカーネーションを贈りますが、ペルーでは、父の日、母の日に両親にチチャロンをプレゼントするんですよ」と教えてくれました。「どうしてチチャロンなんですか?」と聞くと、「おいしいから」。この上なくストレートな理由ですね!
ペルーでは2025年9月に、毎年9月の第2日曜日は「チチャロンの日」と制定されました。日曜日の朝食に家族でチチャロンを食べる習慣があるからだそうです。チチャロンは庶民的なローカルフードではありますが、値段もそこそこしますし、実はちょっとしたご馳走。特別な日に家族みんなで分け合える、食べごたえのあるちょっといい料理、それがチチャロン。家族の幸せを象徴するハッピーな一皿なのでした。
以下、ペルー各地で私が食べたチチャロンです。地域によって少しずつ違うものの、芋やとうもろこしなど、炭水化物と一緒に食べるのは共通。
文・写真:編集部