ペルーの人が大好きな魚介マリネ「セビーチェ」は、爽やかな酸味と、唐辛子や香味野菜由来の独特の旨味が特徴です。現地のシェフにセビーチェのつくり方を見せてもらい、美味の秘訣を教わってきました。
dancyu編集長の藤岡です。
南米のペルーは、美味しいもの好きの間では最近ちょっと注目されている国です。
「世界のベストレストラン50」では2023年、2025年にペルーのレストランが1位を獲得。「dancyu祭(まつり)」で毎年トップ級の人気を誇る「ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタ」ブースの太田哲雄シェフもペルーで経験を積み、帰国後に日本で大ブレイクしました。私自身もペルーという国に興味津々!2025年の夏の終わりに縁あって訪れたペルーの食について、数回に分けてレポートいたします。
まずはペルー料理を代表する一皿「セビーチェ」。
セビーチェは、ライムの酸味と玉ねぎやパクチーなど香味野菜の風味が爽やかな白身魚のマリネです。初めて食べたときから心惹かれ、日本のペルー料理店では必ず注文する料理の一つでした。今回はペルーで本場の味を堪能できることを楽しみにしていました。
ペルーに到着した翌日、町にセビーチェを食べに行く前にまず参加したのが、首都リマにある「HOTEL B」のクッキングクラス。「HOTEL B」は瀟洒な建物が立ち並ぶバランコ地区にある、クラシカルでチャーミングなブティックホテルです。そこで腕を振るうホセシェフに、セビーチェのつくり方を教えてもらいました。
セビーチェに欠かせないのが“レチェ・デ・ティグレ”(Leche de Tigre)」。「虎のミルク」と呼ばれるマリネ液です。ミルクのように白濁していて滋養強壮に効果があり、飲むと虎のように元気モリモリになる、ということからそう呼ばれるようになったとか(しかしペルーの山に虎はいないらしいんですよ。謎!)。
日本で見かけるセビーチェのレシピは、レモンや唐辛子を白身魚に個別に加えて和えていくものが多かったですが、本場ではたっぷりのライム果汁でマリネ液をまとめて仕込んでしまうのですね!それだけ大量につくるということなのでしょう。下のレシピ見ていただくとわかりますが、レチェ・デ・ティグレに加える水分はライム果汁のみ。しかも4人分で15個!なかなかの量です。
セビーチェは鮮度が命。ホセシェフ曰く、「美味しいセビーチェの鉄則、それはつくってから7分以内に食べることです!」。マリネ液で和えたら、後は時間との勝負。時間がたつと酸味で魚の身が硬くなる上、水分が出て水っぽくなり味のバランスが崩れてしまうからです。
平目などの白身魚 | 160g(2cm角に切る) |
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赤玉ねぎ | 15g(薄切り) |
アヒ・リモ | 2g(ペルーの赤唐辛子、角切り、*1) |
パクチー | 2g(みじん切り) |
塩 | 5g |
マリネ液(レチェ・デ・ティグレ) | 90ml(下記参照) |
★ つけあわせ | |
・ さつまいも | 40g(ゆでて潰しておく、*2) |
・ ゆでとうもろこし | 20g(ジャイアントコーン) |
・ 揚げとうもろこし | 20g(チュルピ) |
・ 海藻 | 少々(ユーヨ) |
★ マリネ液(4人分、つくりやすい分量) | |
・ セロリ | 150g(茎の部分) |
・ アヒ・リモ | 1本(ペルーの赤唐辛子、*3) |
・ 赤玉ねぎ | 80g(1/2個程度) |
・ パクチー | 30g(茎ごと) |
・ 生姜 | 20g(薄切り) |
・ にんにく | 3片 |
・ ライム | 約15個(果汁600ml分) |
・ 黒胡椒 | 小さじ1弱(約5g) |
・ 塩 | 小さじ2.5(約15g) |
*1日本の赤唐辛子で代用可能。
*2「HOTEL B」では蜂蜜とオレンジジュースを加えてのばし、ピュレ状にしている。
*3生の赤唐辛子やタカノツメで代用可
セロリ、赤玉ねぎ、パクチー、生姜、にんにく、赤唐辛子をフードプロセッサーやすり鉢で細かく潰す。
1に塩、黒胡椒を加え、ライムを搾って和える。ライムは手でもんで柔らかくしてから半分に切り、果汁を絞る。搾りすぎると苦味が出るので注意。
2を冷蔵庫に少なくとも2時間置く。マリネした野菜を金ザルに押しつけながら濾し、最後の一滴までぎゅっと絞り出せばレチェ・デ・ティグの出来上がり。
魚を1cm角に切り、塩、唐辛子、パクチーで軽く和える。
皿にさつまいもピュレをのばす。その脇に赤玉ねぎ、ゆでとうもろこし、揚げとうもろこしを並べ、マリネした白身魚を形よく盛り付ける。
3のマリネ液(レチェ・デ・ティグレ)をさっと回しかけ、1分ほどなじませる。塩加減を確認して足りなければ足し、最後に海藻を飾り、残りのマリネ液を全体にかけてセビーチェの出来上がり。
初めて自分でつくった本場のセビーチェは、きゅっと酸っぱくてパクチーや玉ねぎが香り、イタリアンのカルパッチョよりシャープでエキゾチック!ペルーのセビーチェにはライムやパクチー、赤玉ねぎ、唐辛子など、東南アジアのタイと似たような食材を使うけれど、また別の方向性の熱帯・亜熱帯料理テイストなのが楽しいです。
セビーチェの起源は古く、約2000年近く遡ります。起源一世紀頃から南米の北部沿岸では、インカ以前のモチェ文化が栄えていました。モチェ人たちは“トゥンボ”と呼ばれるフルーツの果汁で、生魚をマリネした料理をつくっていたとみられています。
時代が進むにつれ調理法も変化します。インカ時代にはチチャ・デ・ジョラ(トウモロコシの発酵飲料)や唐辛子で魚をマリネしていたようです。
スペイン人が到来してからは、酸で魚を“調理する(cook)”習慣が広まりました。最初はオレンジ、そして後にライムを使用するようになりました。その後、コリアンダー(パクチー)や玉ねぎといった香味野菜が取り入れられ、今日のセビーチェが生まれたといいます。
私はうっかりペルーの人に「ペルーでも魚を生で食べるんですね!」と言ってしまったことがありますが、すぐさま「生では食べません!酸味で調理します、生ではない」とキッパリと否定されました。確かに、加熱していないだけで、酢〆は生ではないですね。失礼しました。
dancyuWEBでは、先述の太田哲雄シェフのセビーチェも紹介しています。
今回紹介した本場のセビーチェレシピには手に入りづらい食材もありますが、太田シェフのレシピは日本の家庭でもつくりやすくなっています。併せてご活用ください。
文・写真:編集部