
この数年、東京の町焼肉が劇的に進化している。今回ご紹介するのは、前回に引き続き、ランチ焼肉。三田駅徒歩2分の人気店「ホルモンまさる」です。
先週、大塚でランチ焼肉をキメてしまったところ、今週も昼から口が焼肉を求めて落ち着かない。となれば、もう三田だ。いざ『ホルモンまさる』へ。
平日の開店から90分限定のランチタイム。13時30分という少し中途半端な開店時間にもかかわらず、引き戸が開く前から店の脇には行列が伸びる。もちろん営業開始時には全卓が埋まる。
僕の定番の注文は「タレ、ライス中で」。ランチのみの注文となる定食は、塩とタレの2種類がある。その正体は夜メニューの「和牛カルビ」(910円)だ。そこに麦飯ライスと小鉢のキムチがついて1,000円(税込)、北里柴三郎先生1枚でありつける。
酷暑のなか、ジョッキで提供してくれるお冷やのうれしいこと。チンチンに熾こった炭の詰まった七輪を前に気持ちもばっちりスタンバイ!というところでタレ味の肉が運ばれてきた。
夜には「和牛カルビ」として提供される肉が、昼には焼肉定食として提供される。その正体は肩バラ肉。赤身と脂身とスジのバランスがよく、口に入れた瞬間ジュワッと肉汁が吹き出し、噛めば赤身の奥深い味がグワッと膨らんでくる。
早速、担当編集スズキ氏がおもむろに1枚を網の上へ。
網の上に一文字に肉を敷く。町焼肉ではあまりお目にかかれない几帳面さだ。が、これだと少々全面に火が入りすぎる。町焼肉の命は焼き目と焼きムラだ。ガンガン食べるなら大阪の下町風にまとめてごちゃ焼きをしてもいいくらいだが、こちらももう学生ではない。少し丁寧に焼こう。こんな感じ。
少し厚みを持たせてクシャッと置く。表面に焼き目と焼きムラをつけつつ、ミディアム・レアの部分も残しておこうという狙いだ。時折、脂身から牛脂が落ちて燃え上がるが、1枚ずつ焼けばさしたる炎も上がらない。
そして1枚の肉に強い焼き目と赤身が入り交じるとき、いよいよゴールが近づいてくる。そしてランチのタレには欠かせないアイテムがこちら。最初の注文時にこれを別注するのを忘れてはならない。こちらもランチのサイドメニュー「生玉子」(100円)だ。
まずはあわてずに卵を溶く。そして香ばしく焼き上げたタレ味のカルビを溶き卵にくぐらせる。左手で麦飯を持って溶き卵のほうへと肉をお迎えに。肉汁とタレと溶き卵が渾然一体となって、麦飯の上に滴る。このタレの染みもいい。
牛肉、とりわけ黒毛和牛と麦飯は相性がいい。白米よりも味の広がりが多様で穀物由来の香ばしさも強い。それでいて甘やかさもある。プチプチとした食感も黒毛和牛、肩バラのスジのふくよかなコクとも最高の相性で、銀皿一面に敷かれていた和牛があっという間に消失してしまった。食感と味の深い麦飯を牛タンだけに独占させる手はない。
ランチのもうひとつの味、塩の佇まいも美しい。
タレ味との最大の違いは、肉の色がそのまま皿の上で花開いていることと中央に置かれたポン酢。こちらは網の上で炙った後に、ポン酢につけて口に運ぶ。先のタレ味が「焼きすき」風なら、こちらは「焼きしゃぶ」風味だ。白飯にワンバウンドさせるかどうかはお好みで。
それにしても焼肉は不思議だ。牛丼なら1人前で事足りるのに、焼肉となると1人前ずつではどうしたって足りない。実は「ホルモンまさる」ではランチからすべてのメニューを注文することができる上に、店内の至るところにこの張り紙がある。
まったくもって目の毒だ。ついうっかり注文してしまうじゃないか、と思いながら注文してしまう。まったく人間とは弱いものだ。
ランチから夜のメニューも注文できるというだけでこの体たらく。本当に人間とは弱いものである。ぷはぁ。
文・写真:松浦達也